PK戦に入った瞬間、日本の敗退が頭をよぎった。

前回大会のクロアチアは2回のPK戦の末に決勝に進出。日本は10年大会でPK戦の末にベスト8入りを逃した。W杯でのPK戦勝率0パーセントと100パーセント、不安は直前にキッカーを決めているのを見て確信に変わった。

「PK戦は運」というのは、負けたチームの言い訳か、失敗した選手への慰めでしかない。前回のクロアチアは「運が良かった」から準優勝できたのではないし、11年女子W杯の決勝で米国とのPK戦を制したなでしこジャパンを「運だった」ということもない。

W杯で初めてPK戦が行われたのは、82年スペイン大会準決勝の西ドイツ-フランス戦だった。延長1-3から追いついた西ドイツの選手は準備万全に堂々としていて、プラティニらフランスは順番でもめているようだった。結果は5-4で西ドイツが勝った。

ドイツは西ドイツ時代を含めてPK戦4戦全勝。アルゼンチンは3勝1敗、ブラジルも3勝1敗で3連勝中だ。偶然ではなく、勝負強いチームはPK戦でも結果を残している。「運」と言わずに練習し、研究して勝ち上がりを目指す。

ドイツがPK戦巧者のアルゼンチンを下したのは06年ドイツ大会準々決勝、GKレーマンはストッキングに入れたメモを相手のキックのたびに取り出し、蹴る方向や癖をチェックして2本をストップした。相手選手のキックを調べあげた準備が勝利につながった。

準備をせずに負けた例もある。82年のフランスは立候補を求めたら、誰も手をあげなかったという。90年イタリア大会のユーゴスラビアも立候補制。1番手のストイコビッチが外し、マラドーナのアルゼンチンに敗れた。オシム監督は「PK戦は運だから」と言ったが、備えていれば歴史は変わったかもしれない。

PK戦は、サッカーに対する文化まで反映する。もちろん、基本的なキックの強さ、正確さは必要だが、ドイツが強いのは「勝った者が強い」という考えがあるから。もともとPK戦を「邪道」とし国内カップ戦も近年まで「再試合」だったイングランドは、前回の勝利まで3連敗だった。

日本でもリーグ戦重視でPK戦は減りつつある。高校サッカーにはつきものだが、ユース出身者は経験の場がほとんどない。今回、唯一成功した浅野は三重・四日市中央高時代の選手権でPK戦2勝の末に優勝。失敗した3人はJユース出身だ。10年南ア大会パラグアイ戦で成功した高体連出身の3人は、全員が選手権や総体でPK戦を経験していたが、Jユース出身者が失敗。偶然とは思えない。

もちろん「運」と割り切って、試合時間内の勝利だけを考えることも悪くはない。ただ、決勝トーナメント以降の次戦に進むルールとしてある以上、16強以上を目指すのなら準備は必要だ。目標が1次リーグ突破ならばいいが、ベスト8とするのなら「PK戦は運」という文化では厳しい。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIの毎日がW杯」)

日本対クロアチア 長友(中央)はPK戦の末に敗れ号泣する南野を励ます(撮影・パオロ ヌッチ)
日本対クロアチア 長友(中央)はPK戦の末に敗れ号泣する南野を励ます(撮影・パオロ ヌッチ)
日本対クロアチア PK戦の末に敗れた森保監督(中央)は吉田とハグ(撮影・パオロ ヌッチ)
日本対クロアチア PK戦の末に敗れた森保監督(中央)は吉田とハグ(撮影・パオロ ヌッチ)