「みんながブロって、声を掛けているのに、目をゆっくり閉じるようにして。本当にまずいと思った」。J2横浜FC関係者は、そんな風に振り返った。9月24日のリーグ戦の第38節・アウェーV・ファーレン長崎戦。前半終了間際に、ドイツ人GKスベンド・ブローダーセン(25)が、長崎MF米田隼也(26)と交錯。クロスの処理で飛び出した際に、頭同士が接触した。ブローダーセンは、そのまま倒れ込んだ。静寂に包まれるスタジアム。選手、スタッフが鬼気迫る表情で「早く」と担架を呼ぶ姿が、全てを物語っていた。起き上がれないブローダーセン。「救急車」と叫ぶ声が響き渡った。

担架に乗せられ、首を固定された。キャプテンMF長谷川竜也(28)は、少しでも楽になるようにと、ブローダーセンの靴下、すね当てを外した。しばらくして、ブローダーセンが呼びかけに反応。ただ、エースFW小川航基(25)は「最後は会話は出来たんですけど、記憶が飛んでいたようで」。それだけの衝撃だった。心配していたのは、相手も一緒だった。長崎のブラジル人FWエジガル・ジュニオ(31)は着ていたユニホームを脱ぐと、懸命に風を送った。

アクシデントから約10分後。救急車が到着した。搬送される際には、横浜FCの先発メンバーだけではなく、控えの選手、スタッフ、さらには長崎の選手らによって列がつくられた。共に戦っているからこそのシーン。そんな風に感じた。結果的に、最悪の事態は免れた。病院で精密検査を受け、脳振とうと診断された。

長崎MF米田は、その日のうちに自身のツイッターを更新「応援ありがとうございました。僕は打撲による頭痛だけで大丈夫です。病院でブローダーセン選手とも話すことができて安心しました。無事で本当に良かったです。長崎、横浜FCの選手、ファンサポーターの皆さんにもご心配おかけしました。故意的にやってはいないことだけは理解してください。(原文まま)」と思いをつづった。

ブローダーセンは別メニューながら、既に自身の足で歩くことが出来ており、順調に回復に努めている。真剣勝負だからこそ、起きるアクシデント。誰にも罪はない。勝敗、敵味方、それらを超えたものが、スポーツの醍醐味(だいごみ)。救急搬送される際、スタジアムで起きた両チームサポーターからの拍手は、それを意味していると感じた。【栗田尚樹】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)