サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会に向けたアジア最終予選の日本代表のアウェーでの戦いは、スポーツ専門配信サービス、DAZN(ダゾーン)による独占配信となった。11月のベトナム戦、オマーン戦(日本時間16日深夜1時)はいずれも、地上波での放送はない。98年のフランス大会から6大会連続でW杯に出場を続けている日本だが、これまではW杯出場の瞬間はすべて、地上波で放送されてきた。アウェー戦がDAZNの独占配信になり、決定の瞬間がDAZNになる可能性もある。

これも、放送権料の高騰が要因だ。スポーツ中継に携わるテレビ局のスタッフは「W杯を含めて、放送すればするだけ赤字になる」と嘆く。18年のW杯ロシア大会は、採算を重視したテレビ東京が放送から下りている。さらに、DAZNは映像出力機器やアプリを利用すれば、茶の間で地上波と変わらない条件で視聴可能。「日本の地上波の優位性はなくなっている。お手上げ」と現実を見る。

W杯を主催する国際サッカー連盟(FIFA)、アジア杯などを主催するアジア・サッカー連盟(AFC)としては、地上波だけでなく配信サービスにも放送権を売れば収入も増える。テレビ関係者は「今後はW杯の本大会も、地上波でなくDAZNなどの配信サービス媒体で中継される可能性もある」と予想する。

万一、W杯カタール大会で日本が出場を逃すことがあれば、カタール大会自体、大幅に地上波での放送が減る可能性が高くなる。さらに、26年のW杯カナダ・メキシコ・アメリカ大会から、参加国が32カ国から48カ国に増える。1次リーグは1組3チーム・16組組に分かれて戦う方式の見込みで、日本が出場した場合、1次リーグは2試合のみ。地上波の関係者は「確実な日本戦が3試合から2試合になることで、ますます、放送するのが厳しい状況になる」と予想する。

地上波の利点は、普段、サッカーを見ない老若男女が「W杯だから」「アジア最終予選だから」とチャンネルを合わせることだ。間口が広く、放送を機に「サッカーを始めたい」と夢を抱く子供が出たり、サッカーファンになる女性やシニア層が増える。地上波がなくなれば、代表戦に触れる機会が少なくなるのは必至。将来、サッカーの視聴者がコアなファン層に絞られるかもしれない。