新型コロナウイルス感染拡大の影響で、国内外のサッカーリーグ、代表の国際試合は中断、中止を余儀なくされている。

生のサッカーの醍醐味(だいごみ)が伝えられない中、日刊スポーツでは「マイメモリーズ」と題し、歴史的な一戦から、ふとした場面に至るまで、各担当記者が立ち会った印象的な瞬間を紹介する。

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忘れられない、いい光景だった。17年11月4日、埼玉スタジアム。ルヴァン杯決勝でC大阪が川崎Fを2-0で下し、クラブ悲願の初タイトルを手にした。

当時の主将、FW柿谷はユニホームの下に別のユニホームを仕込んでいた。下に着た「背番号20」はそれまでセレッソひと筋15年目のDF酒本(現J3鹿児島)のもの。1次リーグから勝ち上がりに貢献しながら、決勝の舞台はベンチ外だった。柿谷は試合後に「絶対一緒に優勝したかった。一緒に戦ってもらおうと思った」と思いを明かした。

現在も主力として活躍する清武、柿谷に、過去を振り返っても森島、香川、乾、南野と日本代表でも主力を担うきらびやかな「個」のスターが育った。一方でタイトルには無縁。この年も前年度までJ2でもがいていた。「個」の強みがありながら、チームとしての力を欠き、ここ一番での勝負弱さがクラブの負の歴史を築いていた。

この年に就任した尹晶煥監督(現J2千葉監督)は、かつて選手として在籍したクラブの弱みを知る適任者だった。J1に復帰したこのシーズン、リーグ戦とカップ戦でメンバーを使い分ける、徹底したターンオーバー制で臨んだ。一方でカップ戦の「控え組」も活躍すれば、リーグ戦でチャンスを与え、高いレベルでモチベーションを維持。その成果が実り、負の歴史を打ち破った。

決勝。酒本だけでなく勝ち上がりを支えたメンバーのほとんどがベンチ外で、主力組で臨んだ。ルヴァン杯初出場のFW杉本が開始47秒弾でMVPを手にしたが「正直(気持ちは)複雑だった」と試合後に明かしている。晴れの舞台に立てない選手の気持ちを思った。それは先制後、川崎Fに圧倒的に攻め込まれながら全員が体を張って失点を防いだプレーで示した。

当時、最年長で決勝はベンチ外だったDF茂庭に後に聞いた。「プロとしてはもちろん悔しい」と話した上で「(決勝は)感動しましたよ。人の心を動かすのは難しい。リーグ戦のメンバーは、将来の日本を背負う選手も多い。その彼らが地べたにはいつくばって戦っている姿は、一緒に戦っている思いになれた」。

チーム競技のサッカーだが、「個」の力に注目しがちになる。しかし、目指すものを勝ち取るには、1人では成し遂げられない。個があってのチーム、チームあっての個。新型コロナウイルス禍にあって、プロの一流選手が動くこともままならない状況に置かれている。その中でSNSを積極的に活用し、横にもつながってさまざまなメッセージを発信する選手も少なくない。必ず乗り越えられる。そして、3年前のC大阪の初優勝がよみがえった。【実藤健一】