新型コロナウイルス感染拡大の影響で、国内外のサッカーリーグ、代表の国際試合は中断、中止を余儀なくされている。

生のサッカーの醍醐味(だいごみ)が伝えられない中、日刊スポーツでは「マイメモリーズ」と題し、歴史的な一戦から、ふとした場面に至るまで、各担当記者が立ち会った印象的な瞬間を紹介する。

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肉の焼ける、いいにおいがした。朝から何も食べられず、取材を終えてようやく晩メシにありつけた。ウズベキスタンの首都タシケントで見つけた韓国料理店だった。

97年W杯アジア最終予選。カザフスタン、ウズベキスタンとのアウェー2連戦は食事ができる場所も限られ、空腹との闘い。同僚とおなかを鳴らしながらプルコギができるのを待っていると、先に来ていた他社の記者たちが、コソコソと店を出て行った。

「何かあったのかな」。すぐに思い当たることはない。「もう日本は夜中。締め切りも過ぎてるか」。2人でガツガツと肉をほおばった。しばらくして、日本サッカー協会の幹部がホテルで急きょ取材に応じると分かった。慌てて店を飛び出した。

耳を疑った。1-1で引き分け、加茂周監督が更迭された4日前のカザフスタン戦。試合会場のゴールが規格より小さかったという。日本と入れ替わるようにしてカザフスタン入りしていた韓国マスコミが報じていた。サイズが小さいと感じた関係者がゴールを測定。幅がボール1個半分にあたる32センチ足りず、高さも14センチ低かったという。

言われてみれば…。いや、そんなことがあるだろうか。カザフスタン戦は、MF中田英寿の決定打がポストを直撃し、FW呂比須ワグナーのシュートがバーをかすめた。もし、ゴールがもう少し大きかったら監督交代はなかった? 日本協会がカザフスタン協会に確認したところ、回答は「サイズに問題はない」。韓国協会側も慌てて「FIFAのマッチコミッサリーが計測しても問題なかった」と疑惑を否定した。

真偽不明の騒動だったが、長沼健会長は「同じ条件で試合をしたのだから仕方ない」と未練がましいことは一切、言わなかった。「頭領を代えるしかない」と劇薬を打ち、岡田武史コーチを監督に昇格させたばかり。変えられない結果より、次の試合に集中したい-。ウズベキスタン戦は、協会にとっても命運がかかっていたのだ。

W杯フランス大会出場につながる激動の中央アジア遠征。私にとっては、やり直せるなら-と悔いがある。空腹に、プルコギの未練に負けた27歳の自分に。なぜ、すぐに取材に向かわなかったのか。のんきに食べてる場合か。会見に間に合ったのは運がよかっただけ…。どんな状況でも厳然としていた長沼会長を思い返すと、今でも自分が恥ずかしくなる。【西尾雅治】

◆ゴール サッカー競技規則によるとポストの間隔は7・32メートル(8ヤード)で、クロスバーの下端からグラウンドまでの距離は2・44メートル(8フィート)。ゴールポストとクロスバーは、同じ幅と同じ厚さで、12センチ(5インチ)以下と定められている。