【アルワクラ(カタール)5日】壁は、どうしてこんなにも高いのか。日本代表DF吉田麻也(34=シャルケ)は、赤くなった目を拭った。「毎日、この壁を破るために、4年間いろんなものを取り入れてチャレンジしてやってきたつもりです。最後、結果が出なくて悔しいです」。越えた先にある新しい景色が見たくて、全てを費やしてきた。4年間の挑戦。始まりも涙だった。

16強の壁を目の当たりにした18年ロシア大会の後。長谷部誠から主将の座を託された。寂しさに大粒の涙を流した29歳は、たくましいキャプテンへと成長していった。21年10月のW杯アジア最終予選。差別的なジェスチャーを見せたサウジアラビアのサポーターに、激高し立ち向かった。「結果が出ていなければ協会、監督、選手も責任を取る覚悟はできている」。W杯出場が危ぶまれた時も、毅然(きぜん)と矢面に立った。

自らの立場の変化とともに、いつか来る瞬間も悟っている。東京五輪開幕を約1カ月後に控えた昨年6月。ホテルのカフェで気心知れた友人とコーヒーを飲みながら、ふと漏らした。

「この年齢になって、いつまでサッカーができるんだろうと思うようになった。あとどれだけ出来るか分からないから、やれることをやりたい。オフよりもサッカーをやれたほうがいい」。

オフ期間に行われる東京五輪に出れば、休むことは出来なくなる。「シーズンぶっ通しで大変だね」と何げなく言った友人へ返した言葉。これまでにないほどサッカーにささげる決意を、周囲も感じ取っていた。

これだけの思いと月日を費やしても、立ちはだかった壁。「どの強いチームも、個で守れる選手が求められる時代。冨安、板倉、伊東とか、そういうのもやっていかないといけないのでは」。自分の名前を出さずに、少し寂しそうに笑った。「僕はもうそこには…」。

これからの去就については「ゆっくり考えます」とだけ言った。4年前から積み重ねてきたものは、日本が大きな壁を越えるための、確かな土台となるはずだ。【磯綾乃】