19歳をリオに連れてって-。1月の箱根駅伝を2連覇した青学大の原晋監督(48)が、16年リオデジャネイロ五輪代表に「20年東京五輪枠」を希望した。2年生の下田裕太(19)が初マラソンで10代日本最高記録(2時間15分30秒)を塗り替える2時間11分34秒で10位、日本人2位と躍進。同1位の高宮祐樹(28)が2時間10分57秒で8位と低調だったことも受け、「東京に向けてリオを経験させないと。選考の有力候補にすべき」と提言した。

 レースを見守っていた原監督の指摘は痛烈で的確だった。「学生に引っ張らすなよ!」。品川を折り返した17キロ過ぎ、約30人の第2集団前方に箱根駅伝で見慣れた緑のユニホームが広がった。下田、橋本、渡辺、一色。青学大の面々だ。

 2時間5分台設定のペースメーカーに8キロ過ぎからついていけず、実業団選手中心の集団は、日本陸連の設定記録2時間6分30秒ペースには程遠い。けん制しあったのを差し引いても消極的なレース。刺激を求めたのが学生だった。「つまらない。ペース上げる口火を切ろう」。エントリーしたエリート選手164人中唯一の10代、下田が仕掛けた。後続に続くように手であおる。それでも動かない。

 結局、今井、松村、藤原らは低空飛行を続けた。「日本人トップの意識はなかった」という無名の高宮が2時間10分57秒とリオ五輪選考には物足りない一方、初マラソンの若者の躍動が際立った。落ちてきた村山、スパートした服部を41キロ過ぎて抜いた下田が日本人2位。同3位の一色と、選考対象に教え子を送り込んだ原監督は「チーム青山の勝利」と胸を張り、選考にも一石を投じた。

 「テーブルに上がったというのはしょぼい発想。(下田は)有力候補ですよ。伸びしろは計り知れない。夏の東京へも、暑いリオを経験させないと。3枠を2枠にするのが一番だめ」

 当の下田は「(リオは)考えてない。10代最速の肩書はうれしいけど」と屈託ない。ただ、本格的なマラソン練習をせずに結果を残し「下の世代が学生でマラソンを走るのが間違ってないと思ってくれれば。『ファーストペンギン(開拓者)』として価値あるかな」と期待もした。

 レース後の会見では日本陸連の酒井強化副委員長は「日本トップレベルが出たが、速いペースについていけなかった。物足りない」と厳しい口調。学生の活躍に質問が及ぶと「将来性は(選考要項に)入れておりません」。代表3枠は「要項に『保証するものではない』とある」と、来月のびわ湖の結果次第では2枠の可能性も否定しなかった。

 福士の「強行出場」を巡る女子の選考とは性質が異なるが、男子でも「20年東京五輪枠」が浮上した。低迷する男子マラソン界の現状を見ると、来月の代表決定まで議論を呼びそうだ。【阿部健吾】

 ◆下田裕太(しもだ・ゆうた)1996年(平8)3月31日、静岡県小山町生まれ。小山中ではソフトテニス部。加藤学園高から陸上を始め、3年時に同校史上初出場した全国高校駅伝3区で区間37位。14年に青学大入学。箱根駅伝は1年は出場なし、2年の今年は8区で歴代3位の区間賞を獲得して2連覇に貢献。5000メートルは14分6秒85、1万メートルは28分33秒77、ハーフマラソンは1時間45秒が自己ベスト。好きなアニメはアイドルマスター。169センチ、54キロ。

 ◆記録メモ 92年12月の防府読売マラソンで、19歳だった砂田貴裕(大阪ガス)が2時間15分30秒を記録したのが、従来の日本ジュニア(10代)最高記録。今回の下田は23年ぶりの更新となった。なお初マラソンの日本最高記録は、03年3月のびわ湖で中大4年だった藤原正和が出した2時間8分12秒。