今季一番の好記録量産大会となった。男子400メートル障害で46秒98の世界歴代2位をマークしたアブデラマン・サンバ(22=カタール)と、女子400メートルで49秒55のサルワ・エイド・ナセル(20=バーレーン)がアジア新をマークして優勝。男子100メートルの蘇炳添(28=中国)は9秒91のアジアタイで3位に食い込んだ。女子800メートルにダイヤモンドリーグ歴代最高の1分54秒25で優勝したキャスター・セメンヤ(27=南アフリカ)ら、7種目で今季世界最高記録(タイ記録を含む)が誕生した。

 後半型のサンバは9台目を越えてからトップに立つ展開が多かったが、パリ大会では8台目で1つ外側のキーロン・マクマスター(21=英領バージン諸島)に並ぶと、その直後にリードを奪った。速報タイマーが46秒台で止まると両手を腰の高さで広げた後、ひざまずいてトラックにキスをする感謝の儀式を2回繰り返した。

 「世界で一番速い選手になりたいと以前のダイヤモンドリーグで言ったことがあったが、今日47秒を切る手応えがあったわけじゃないんだ」。

 男子400メートル障害の46秒台は聖域ともいえるタイムだった。1992年バルセロナ五輪でケビン・ヤング(米国)が出した46秒78が唯一無二の47秒突破。その後25年間、47秒台前半は10人以上が出していたが、誰も46秒台までは到達できなかった。

 次の目標は当然、世界記録の更新になる。

 「近づいているのは事実だけど、僕は速くなるためにやるべきことをワンステップずつやって成長していきたい。実際、去年と比べたら僕のテクニックは進歩しているが、来年記録が良くなるかどうかは誰もわからない。(世界記録は)なんとも言えないよ」。

 聖域に入った男は高い目標を持ちながらも、足下を冷静に見ている。

 優勝こそできなかったが、男子100メートルの蘇の走りも見事だった。

 得意のスタートから序盤で僅かにリードを奪い、9秒88の今季世界最高タイで優勝したルーニー・ベイカー(24=米国)、9秒86のヨーロッパ記録を持つジミー・ビコー(26=フランス)と大接戦を展開しての3位。

 アジア出身選手の男子100メートル・200メートルにおける快走は、スタジアムこそ違うが、2003年パリ世界陸上200メートル銅メダルの末續慎吾(38)以来だろう。

 2人の女王の連勝記録も注目された大会。800メートルのセメンヤは「25」に、走り高跳びのマリア・ラシツケネ(25=ロシア/個人参加)は「45」に連勝を伸ばした。

 セメンヤの1分54秒25、ラシツケネの2メートル04とも今季世界最高だが、セメンヤのタイムは世界歴代4位までレベルが上がった。1980年代に東欧選手によって出された世界記録(1分53秒28)との差が、いよいよ1秒以内になった。

◆今季の男子400メートル障害

 昨年の世界陸上7位だった22歳のサンバが、ダイヤモンドリーグでは5月のドーハとローマ、6月のオスロ、ストックホルム、パリと5連勝中。そしてパリ大会では史上2人目の46秒台に突入し、完全に第一人者の座を占めている。

 そしてこの種目には、サンバ以外にも若手が多く台頭してきた。

 昨年の世界陸上でサプライズ金メダルと言われたカルステン・ワルホルム(22=ノルウェー)も、ローマ、オスロ、ストックホルムと連続2位で実力をアピール。記録も自己新の47秒台を2回出している。

 パリ大会で8台目までサンバをリードしたマクマスターは21歳で、47秒54と自己記録を大きく更新した。4月の英連邦大会にも優勝している。

 さらにレイ・ベンジャミン(アンティグア・バーブーダ)という20歳の新鋭が、47秒02と自己記録を1秒近く縮めて6月の全米学生選手権に優勝した(米国の大学に留学中)。

 20~22歳の4選手の台頭で、男子400メートル障害が新たな時代を迎えている。