来年1月2、3日の第95回東京箱根間往復大学駅伝が迫ってきた。日刊スポーツでは「箱根半端ないって」と題した連載を全5回掲載する。第1回は3冠を達成した指揮官たち。90年度大東大の青葉昌幸氏(76)00年度順大の沢木啓祐氏(75)10年度早大の渡辺康幸氏(45)の3人は、どんな指導哲学で時代を築いたのか? 今大会で史上初となる2度目の3冠を狙う青学大をどう見ているのか?【取材・構成=上田悠太】

  ◇   ◇   ◇  

沢木氏も当時、3冠への意識はなかった。「3冠をやろうと思ってやっていなかった。単純に箱根に勝とう。もう1つはインカレ」。01年箱根駅伝。順大は10区で駒大を逆転し、栄冠をつかんだ。日本学生対校選手権(インカレ)も含め年度4冠だった。

根性論が強かった指導の現場に、沢木氏は医科学的知見を持ち込んだパイオニアだった。順大大学院で血液と持久性に関する研究に励み、指導に生かした。最大酸素摂取量などを測り、トレーニングと結び付けた。ヘモグロビン、ヘマトクリット、白血球、赤血球など血液の数値を検査し、コンディションを見極めた。卓越した調整力は「沢木マジック」と呼ばれた。それも「数値化されたもの」と、理詰めの作業がタネだった。

ただ「データを超越したものがある」とも言う。何か。「暗示効果。選手に暗示をかけることができるかどうか。最終的にはコーチングは言葉です」。

今大会は青学大1強のムードが漂う。沢木氏も「メンバーを見ると見事にそろう。全体的に強い」と言う。ミスが出ないと他大学にチャンスは少ないとみる。

ただ箱根には「落とし穴」も潜むという。3冠前年の00年大会も「勝てる」と確信があったが、5区で区間12位。前年は区間3位と好走した選手の失速が致命的となり2位だった。総合優勝は9度。勝ち方を知る男は、同時に怖さも知っている。

◆青学大の今季2冠 10月8日の出雲全日本大学選抜駅伝は1区橋詰大慧(4年)が第1中継所まで残り約700メートルで先頭に立つと、チームは最後までトップを譲らず、2時間11分58秒で、2年ぶり4度目の優勝を飾り、まず1冠。11月4日の全日本大学駅伝は7区森田歩希が東海大を逆転すると、アンカー梶谷瑠哉(ともに4年)が差を広げ、5時間13分11秒で2年ぶり2度目の優勝。史上初となる2度目の3冠に王手をかけた。