「花の2区」をスーパー1年生が快走し、青学大が5時間21分16秒の新記録で往路優勝を果たした。2区に大抜擢された岸本大紀が1時間7分3秒の好記録で6人抜きし、チームを首位に押し上げた。05年の伊達秀晃(東海大)が保持した日本人1年生の2区記録を1分1秒も更新。勢いに乗った青学大は2位国学院大に1分33秒差連覇を狙う4位東海大に3分22秒差をつけ、2年ぶり5度目の総合優勝を大きく手繰り寄せた。

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聞こえる息遣いは荒い。東海大、国学院大、早大との四つどもえ。視界に入る、その名だたる「花の2区」を担うエースたちの顔は険しかった。「みんなきつそうだ」「いけるな」。残り500メートル。岸本は仕掛けた。差はどんどん広がった。「緊張もなく、冷静に走れた」。そのまま戸塚中継所までトップで駆け抜ける。12月下旬には左足小指を痛め、3日間走れなかった不安も関係なし。笑顔で鈴木主将にタスキを託した。

青学大史上初となる1年生で2区を任された。原監督が「過去に一色、神野、久保田といったエースがいたが、岸本は歴代で1番」という逸材だ。「練習終わりには人一倍ご飯を食べ栄養補給をしていた。トレーニングだけでも大変なのに、勉学を含め寮生活を淡々とこなしていた」と太鼓判を押す。内臓が強いから、練習を重ねられる。高校時代に全国総体に出場も5000メートルで予選敗退と目立った選手ではなかったが、成長を遂げるために欠かせぬ要素が備わっていた。

1区のエース吉田圭から受けたタスキは7番手。最初の3キロで先頭集団に追いついた。最後にスパート。狙い通りの走りで、逃げ切りを描いていたチームの救世主に。1時間7分3秒は区間5位とはいえ、日本人の1年生の最高記録だ。原監督から「勢いをつけた」とたたえられた岸本は、「素直にうれしい。これからも青学を支えられる選手になりたい」と笑った。

華々しい青学大選手のイメージとはちょっと違う。大胆に仕掛ける強心臓だが、性格は堅実だ。瀬古利彦、渡辺康幸ら1年生で2区を走った怪物を超え、夢は大きく広がるように見えるが、「大学が終わってから競技を続けるかは考えていない」という。今後の結果次第で「やるかどうかは決めようと思う」。五輪への夢を問われても「先に大きな目標を立てるタイプではなく、あまり大きな目標を立ててても絵に描いた餅になってしまう。とにかく日々頑張っていく」。高校は新潟県の進学校、三条だ。「つまらない人間」と苦笑いするが、地道な努力を積み重ねて成長。もう実業団が放っておかない、ド派手な箱根デビューとなった。

憧れのランナーはいないが、強烈に意識する存在がいる。駒大のスーパールーキー田沢だ。「あいつのせいでかすんでしまう。あいつには絶対負けたくない」。淡々と話していた口調が熱を帯びた。負けん気の強さも成長を支える源だ。

1年生の躍動に導かれ、チームは往路で覇権奪回の最大のライバル東海大に3分22秒差を付けた。王座奪回を目指して「やっぱり大作戦」を掲げる青学大。その成功に大きく近づけたのは、1年生のサプライズの快走だった。【上田悠太】

◆岸本大紀(きしもと・ひろのり)2000年(平12)10月7日、新潟県燕市市生まれ。兄の影響で小2から陸上を始める。出雲駅伝は2区区間賞、全日本は2区区間5位。自己記録は5000メートルが14分6秒97、1万メートルが28分32秒。高3時の全国高校総体は5000メートルで予選落ち。試合前のリラックスは人気K-POP女性アイドルグループ「TWICE」の曲を聞くこと。172センチ、51キロ。

◆箱根で活躍した主なスーパー1年生 96年アトランタ五輪マラソン代表の実井謙二郎(大東大)は88年1区、オツオリ(山梨学院大)は89年2区、02年アジア大会マラソン銅の武井隆次(早大)は91年1区で区間賞。アトランタ五輪1万メートル代表で早大前監督の渡辺康幸(早大)は93年2区を走り、ケニア人留学生のマヤカに続く区間2位。

マラソン元日本記録保持者の藤田敦史(駒大)は96年1区で区間2位。2区の前区間記録保持者モグス(山梨学院大)は06年2区で、区間賞こそ逃すも史上2位タイとなる12人抜き。09年山登りの5区で、のちに「山の神」と呼ばれた柏原竜二(東洋大)はトップと約5分差の9位から8人抜きで区間新を樹立。10年2区では村沢明伸(東海大)が、日本人ルーキー史上最多の10人抜き。11年1区ではマラソン日本記録保持者の大迫傑(早大)が同区の1年生としては最高タイムの1時間2分22秒で区間賞を獲得した。