12年ロンドン五輪代表の木村文子(あやこ、32=エディオン)は、走ることへの欲を取り戻した。

青木益未(七十七銀行)、寺田明日香(パソナグループ)ら実力者と並んだ決勝。8秒12を記録し、2位となった。青木が日本記録を更新する8秒05で優勝したが、大会前時点の同記録は8秒11。好タイムの木村は「久しぶりの公式のレース。新鮮な気持ちで走れて良かった」とほほえんだ。

新型コロナウイルスの影響を大きく受けた昨季、東京五輪延期の影響もあり、全国規模の大会出場を見送った。

「大会に出ることが選手である以上、本来はワクワク感とか、一定の緊張感が必要だなと感じていました。でも、競技生活が長くなっていく中で『試合に向かっていっているか』というと『はい』と答えられない自分がいました」

あえて試合から距離を置く決断をした。

屋外の100メートル障害で、長く第一線を歩んできた。13年に記録した13秒03の自己ベストは、日本歴代6位。12年ロンドン五輪や、17、19年の世界選手権代表にも名を連ねた。

これまでにない1年を過ごした2020年。10月には広島大大学院へ入学した。スポーツ心理学を中心に、アスリートを取り巻く人的環境を研究するという。

21年2月に鹿児島でレースに臨み、迎えた今大会。久々の空気をかみしめると、素直な心境を明かした。

「『走りたい』という気持ちをためられるように離れたけれど、スタートラインに立って、その感じが出て良かったです」

今季を「集大成」と位置づける。目標を問われると、きっぱりと言い切った。

「自己ベスト更新ですかね」

100メートル障害の自己ベストを記録して、まもなく8年になる。新たな気持ちで、ハードルに向き合っていく。【松本航】