悔し涙ではなく、うれし涙だった。23日、全日本選手権女子フリー。ショートプログラム(SP)7位の三原は「天使のように滑って」と振付師に託された「ガブリエルのオーボエ」で大観衆の心を奪った。中盤からは自然と大きくなる拍手に背中を押された。

 「涙が出そうになったんですけれど、まだ終わりじゃないと思って…」

 演技の終了と同時に、こらえていたものが一気にあふれ出た。「タイミングとか、滑り方とか、跳ぶイメージを思い描いていた。それを全て出すことができてうれしかった」。2日前のSPはダブルアクセル(2回転半)で転倒し、五輪が遠のいた。心の中は「何で?」。フリー前日、食い入るように浅田真央さんの動画を見つめた。日本中に感動をもたらせた、14年ソチ五輪フリーの映像だった。

 いつもその背中を追ってきた。小4だった09年12月、大阪・なみはやドーム(現東和薬品ラクタブドーム)で全日本選手権を観戦した。それまでアイスショーしか見たことがなかった少女はスタンド上段で祖母の隣に座った。4連覇で10年バンクーバー五輪代表を決めた浅田さんの全身を使った演技に、心を打たれた。

 その経験から大会前の公式練習日に、決まってスタンド最上段へと足を運ぶ。GP中国杯では75段の階段を最後まで上り「すごくリンクが小さくて、そのリンクよりも小さい私が演技をする。もっともっと、上の方まで届かさないといけない」と自らに言い聞かせた。5位で五輪を逃した全日本選手権だが、フリーも諦めずに滑る姿に、客席の4階も総立ちになっていた。

 クリスマスイブの夜、同門の坂本花織に五輪代表の吉報が届いた。顔を合わすと「一緒に練習してきた仲間がオリンピックに出られてうれしい」と伝えた。そして「次のオリンピックを目指してもっと、もっと、強くなっていけるように。気持ちの強さとか、それをコントロールできる強い選手になりたいです」と誓った。心、技術、表現、そして「結果」。4年後はその全てを兼ね備え、憧れの人が輝いた舞台へと足を踏み入れる。【松本航】