W杯カタール大会のカメルーン-スイス戦で、懐かしい顔を見つけた。カメルーンのリゴベール・ソング監督(46)。W杯4度出場を誇る英雄で、02年日韓大会ではキャンプ地の大分県中津江村(現日田市)への到着が大幅に遅れて大騒ぎになった、あのカメルーン代表の主力選手だった。出迎えた群衆に笑顔で手を振る姿と、独特のトレッドヘアを思い出して、試合ではつい肩入れしたくなった。

ソング氏をはじめ、今大会のアフリカ勢5カ国の監督はすべて自国出身者で、これはW杯では初めてのこと。ちなみに私が初めてW杯を取材した98年大会の5カ国は全員が欧州出身者。当時のアフリカやアジア勢は、経験豊富な海外の指導者に教えを請うという考え方が主流だった。それが今や選手が海外で経験を重ね、世界中の映像が手元で見られる時代。自国出身監督の世界への広がりは“格差”が縮まった証しだろう。

当然だが国民性と文化を共有する指導者が、チームを率いるメリットは大きい。最大の利点は選手とのコミュニケーション。サッカーに関する話題にとどまらず、選手の育った背景や、背負った思いも含めて、より内面に踏み込んだ対話ができるからだ。それは信頼関係を深めるとともに、監督にとってW杯を戦う上で重要な情報にもなる。

日本の森保一監督はW杯代表メンバー発表会見で「“W杯で成功したい”という野心のエネルギーに期待して選考した」と語っていた。実力や実績だけではなく、選手の“心の奥”まで見つめて選考の材料にした。ドイツ戦で逆転ゴールを決めたFW浅野拓磨は、最後にメンバーから漏れた前回ロシア大会の雪辱に燃える“野心の塊”だった。

先日、W杯日本代表を2度率いた岡田武史監督から「自分に話を聞きにきた代表監督は森保監督が初めて」と聞いた。外国人監督はW杯で勝つことを託された請負人。契約期間が終了した時点で関係も切れるが、自国の監督ならば積み上げたものを、次にしっかりと引き継げる。岡田ジャパンのあらゆる経験値も、森保ジャパンに生かされているのだと思う。

実は92年の歴史を誇るW杯の優勝国は、すべて自国籍の監督が率いている。このデータは外国籍の監督で頂点に立つことが、いかに困難かを物語る。過去にW杯で日本を指揮した岡田氏と西野朗氏は、前任者の解任や急病に伴う交代登板。新体制発足からW杯までの4年間をまっとうした日本人は森保監督が初めて。日本にもW杯で優勝を狙える条件が、着実に整いつつあるのだと思う。【首藤正徳】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「スポーツ百景」)

日本代表森保一監督(ロイター)
日本代表森保一監督(ロイター)