前回のハイパワーポーズに続き、今回もメンタルについて話そうと思う。

飛び込み競技は、高さ10メートルから飛び込むと約1トンの衝撃が体にかかると言われている。恐怖に打ち勝つ心の強さも必要だが、少しの気の緩みが大きなケガへと繋がってしまうため、試合だけでなく練習から1本1本集中しなければいけない、とても繊細な競技だ。

新しく取り組む種目はもちろん、普段から飛べている種目でさえも、一瞬の判断ミスで失敗し水に打ち付けられる。するとそこから恐怖心が芽生え、飛べなくなってしまうこともしばしばある。

そこでとても重要になってくるのが「イメージ力」だ。演技を内側(実際に飛んでいる立場)からも外側(飛んでいる姿を見ている立場)からもイメージし、その時のスピードや景色や感覚を鮮明に頭の中で再現する。脳の中で何度も経験し成功させることによって恐怖心を取り除き、実際に飛ぶ時に体の動きをよりスムーズにしてくれるというとても大切な練習の1つである。

イメージトレーニングを始めた頃は、途中で眠くなってしまったり邪念が入ったりとなかなかうまくいかなかったが、回数を重ねるごとに現実に近い映像が浮かんでくるようになっていった。ケガで練習が出来なかったり、試合が近づいてきて不安な時、そして新種目へ挑戦する前などにはイメージトレーニングにかなりの時間をかけた。そして頭の中の映像に加え、出来る限り実際と同じように体も動かしてみる。そうすることによって筋肉や神経にまで刺激を与え、より現実に近いものとなり体に刷り込まれていくのだ。


演技している自分をイメージする
演技している自分をイメージする

緊急事態宣言が全国的に解除になったとはいえ、まだまだ気の緩められない日々が続いている。今まで当たり前に練習ができる環境だったがゆえに、現状に満足し、イメージトレーニングをあまりしてこなかった選手もいるのではないかと思うが、今回の境遇は学びの時間になったのではないだろうか。

心身ともに元気な状態でありながら十分に練習ができないこの時間をどう使うかによって、この先の競技生活にも大きく影響してくるだろう。新型コロナウイルスの第2波や第3波が懸念されているこのタイミングでイメージ力を強化し、いつでもどこでも練習できるという技術を習得するチャンスかもしれない。

ただし、1つ注意点がある。私は演技のイメージがリアルになればなるほど、絶対に寝る前にはしないようにしていた。実際に練習していると体が勘違いし、交感神経が刺激され寝られなくなるからだ。それほどイメージには力がある。そのため寝る前には違う「トレーニング」をしていた。それを今回は皆さんに紹介しようと思う。

ベッドに横になり、ゆっくりと深呼吸をする。これだけでもリラックス効果があり質の良い眠りを誘ってくれるが、そこにイメージを加えていく。吸うときには「ポジティブな物」を体に取り入れ、吐くときには体内にある「ネガティブな物」を吐き出す、というイメージだ。

私の場合「色」から始めていった。

茶色や黒といった「暗い色」を体内から吐き出し、吸うときには黄色やピンクのような「明るい色」で体内をいっぱいにする。寝る前に今日という1日をリセットし、ポジティブな気持ちで眠ることによって、新しい1日をさわやかな気持ちで迎えられる。そんな効果が期待できる、とてもオススメな方法である。

そこから少しずつイメージを追加していくこともできる。体内にたまった「泥」を吐き出し、「お花」で体内をいっぱいにしたり、「嫌い、怖い」といったネガティブな言葉を吐き出し「楽しい、うれしい」というポジティブな言葉を取り入れるといった方法もある。

前回紹介したハイパワーポーズを行う際にこのイメージ法を取り入れることも効果的だろう。やっていく中で自分に合った方法を見つけていくと毎日の習慣として続けやすいと思うので、ぜひ試してみてほしい。

この先、またどんな状況に陥った時にでも自分自身を守れるよう、心身ともにポジティブに過ごす工夫をしてみてはどうだろうか。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)