「初めて27メートルから飛んだ時は、足元が爆発したかのような衝撃でした」と語ってくれたのは、日本で唯一のハイダイバー、荒田恭兵だ。


日本でハイダイビングの先駆者となった荒田恭兵
日本でハイダイビングの先駆者となった荒田恭兵

ハイダイビングは、男子は27メートル、女子は20メートルの高さから飛び、回転やひねりを加えて足から入水する。彼は、日本で誰もやっている人がいないという理由で始めたが、それゆえに教えてくれる人も、競い合える仲間も国内にはいない。さらには練習できる場所すらも無いという、ゼロからのスタートだった。

荒田 どんな事を始めるにしても1人目が一番険しく、そして一番楽しいものだと思って冒険に挑む感覚でいます。

困難をとても前向きに捉えていた。

日本には環境がないため、実際の高さからの練習は出来ない。しかし、海外でも施設として練習できる場所は数カ所しかないという。

荒田 ハイダイビングを始める前は映像でしか見たことがなく、遠い世界のものだと思っていました。そんな世界に飛び込んで、今は悪戦苦闘しながらやっています。その中で大小さまざまな失敗もあり、自分はまだまだハイダイバーとして未熟者だと感じています。たくさんの間違いを繰り返した末に成功するしかないのだろう、と常々思っています。

先駆者としての苦悩を明かしてくれた。


27メートルの高さから飛ぶ
27メートルの高さから飛ぶ

私も実際にハイダイビングを生で見た時に、数あるスポーツの中でも、特に、生で見ることによって、競技のすごさや迫力を感じられるスポーツだと思った。

27メートルから水に入ったときの衝撃は相当なもの。彼自身も入水に失敗して気絶した経験があるらしいが、そこにはそれに勝る面白さがあるという。

荒田 圧倒的な高さから繰り出されるダイナミックな演技と、その国の街並みや大自然との組み合わせは他競技にはない迫力があります。一瞬の油断もできない状態から、演技が成功した後の爽快感はたまりません。台の先端で構える時に見える壮大な景色と、下から見上げている観客の中で飛ぶことは、何にも代え難い快感です。

そこには選手しか味わえない醍醐味(だいごみ)があるようだ。私もハイダイビングを観戦する中で、失敗しても成功しても、選手間でのリスペクトの意味も込められた惜しみない拍手には、強い絆を感じた。

実は私も1度ハイダイビングの世界に誘われたことがある。しかし、リアルに想像できるがゆえに即答で断った。高さ10メートルでも怖くて泣いていた私にとっては、考えられない領域だからだ。いくら彼からハイダイビングの魅力を聞いても、私の気持ちは揺るがないが、彼の競技に対する熱い気持ちを聞いて、ますます応援したいという気持ちになった。


ハイダイビング日本代表として活躍する荒田
ハイダイビング日本代表として活躍する荒田

彼は、アジア人初として2018年にアラブ首長国連邦で開催された「FINAハイダイビングWorld Cupアブダビ大会」に出場し、既に日本代表として活躍している。

荒田 2022年の福岡県で開催される世界水泳で自国選手として出場し、多くの人々に勇気と感動を与えられるような選手になるのが目標です。

今後への意気込みも十分。これから目が離せない競技の1つである。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)