2カ月後に迫る東京五輪に向けて、各国選手団の事前合宿キャンセルが相次いでいる。

12日にはメダル量産が有力な米国陸上チームが、千葉県内での合宿を中止。14日には丸川珠代五輪相が、すでに45の自治体で事前合宿中止が決まったことを明らかにした。

新型コロナの感染拡大が収束しない中、選手の安全面を考慮した各国選手団がキャンセルを決定。受け入れ態勢が整わないことを理由に中止を申し出た自治体もあるという。全国的に自粛ムードが広がる中、やむを得ないことでもある。

事前合宿は、大会に向けて選手がコンディションを整えるために行われる。時差を調整し、気候など環境に慣れてベストな状態に仕上げる。欧米から遠いアジアの場合は、特に重要。08年の北京大会前も多くのチームが日本で調整した後、中国へと向かった。

合宿を誘致する自治体にもメリットは大きい。五輪やパラリンピックに出場するトップアスリートと直接触れ合うことは、関連する学びとともに教育的な意義は大きい。海外を知ることで、平和に対する意識も高まる。環境整備は地域のスポーツ振興にもつながる。

2002年サッカーW杯日韓大会でも、出場国が各地で事前合宿を行った。大きな話題になったのは、大分県の中津江村。到着が遅れたカメルーン代表を村民が温かく迎え、その交流が話題になった。中津江村は一躍「全国区」となり、その年の流行語大賞にも選ばれた。同村とカメルーンの交流は、日田市に編入された今も続いている。

パラグアイ代表を迎えた松本市など、Jクラブ誕生の契機となった例もある。事前合宿の盛り上がりは、その後のスポーツ行政にも生かされた。何よりも子どもたちがW杯やスポーツ、そして海外を身近に感じることができたのが大きい。

事前合宿地では、子どもたちに対する「教育」も行っている。その国の歴史や文化を知って、選手を迎え入れる準備をする。現地の言葉でのあいさつを覚え、国旗を振って歓迎する。海外と「ともに生きる」ことの大切さを知ることが、平和教育にもつながる。

集大成が、選手たちとの交流イベント。五輪・パラリンピックは単に世界のトップアスリートが競うだけの舞台ではない。直接選手との触れ合いが、子どもたちにとっての「東京大会」なのだ。握手をし、言葉をかわした選手を知り、その国を知り、応援する。それが、彼らの「東京五輪・パラリンピック」になる。

残念ながら、今後も事前合宿の中止は増えることが予想される。たとえ行われても、イベントなどは制限される。感染リスクを考えれば、住民と選手たちが触れ合う機会も限りなく少なくなるはずだ。今後の状況次第では、大会そのものがなくなる可能性もある。

ただ、合宿が中止されても、これまでの準備を無駄にしてほしくはない。子供たちの「学び」も、大会に向けて継続してほしい。激励のプレゼントを用意していたのなら、送ればいい。たとえリモートでも、選手を応援する「元合宿地」の声を伝えたらいい。大会本番では、その国をテレビの前で応援してほしい。離れた選手たちにも、その思いは必ず届くはずだ。

新型コロナウイルスによって合宿や交流する機会を奪われても、その国や選手たちとの関係は保ってほしい。あらためて選手を招待するなど交流の場を作ってもいい。子供たちが国を知り、世界を知ることは、将来必ず生きてくる。10年後や20年後に「その国を知ったのは、東京大会がきっかけです」となれば、大会の「レガシー」になる。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)