国内で、世界でも非常に珍しいテニス大会が開催されている。それも、れっきとした世界ランキングのポイントが取れるプロの国際公式戦だ。

 主催は大学。学生が主体となり、賞金から経費をかき集め、スポンサーを募り、運営も行う。今年は2~3月にかけて、慶大、亜大、早大、筑波大の4大学が、男女合わせて計6大会を開催した。

 大会はすべてツアー下部大会だ。男子は亜大、早大、筑波大が主催するのが、最も下のレベルのITF(国際テニス連盟)公認フューチャーズで賞金総額1万5000ドル(約165万円)。慶大はその上のレベルのATP(男子プロテニス協会)公認チャレンジャーを主催し、賞金総額は5万ドル(約550万円)だ。女子は慶大と亜大が開催している。

 世界で見ても、大学がプロの大会を主催しているのは聞いた事がない。大学にはコートがあり、部活には部員がいる。会場費や人件費はかからず、トッププロが出場しない大会でも、開催しやすい地盤があった。昨今、精神論や根性論だけがクローズアップされ、大学の体育会気質が国際化と懸け離れていると批判されることが多い。しかし、このテニス大会は、大学スポーツでも世界を実感し、交流できる好例だ。

 きっかけは06年にさかのぼる。日本の男子テニス界は、錦織圭もおらず、世界から取り残されていた。亜大の堀内昌一テニス部総監督は「大学に行くと、極端に国際的なテニスと触れる機会が減る。モチベーションは目の前の勝ち負けだけ。それを変えたかった」と、大学に大会開催を掛け合った。

 大学がプロ大会を開催するという突拍子もない提案に、当初は首を縦に振るわけがない。それを地道に「大学には迷惑をかけない。学生たちも勉強になる」と説得。また、関東大学リーグでライバルだった早大も開催を検討しており、それも後押しとなった。07年、両大学は賞金1万ドルのフューチャーズを3月に開催。今年で記念すべき10回目を迎えた。

 いくら大学のコートと部員で運営するとは言っても、資金繰りは毎回大変だ。今年の亜大の例をあげる。大会の四釜泰知アシスタント・ディレクター(4年)によると、予算は男女各大会で約400万円の計800万円。まず、学友会からの援助がある。また、毎月2回、1回3時間4000円で、部員が地元の愛好家にテニスクリニックを開き、年間200万円を集める。残りは東急グループや地元の企業約40社からスポンサーを募った。今年は初めて日本テニス協会(JTA)から、男女ともに5000ドル(約55万円)の援助もあった。

 支出は賞金のほかに、公認料としてITFに賞金の10%、JTAに5%を払う。審判、トレーナー、ストリンガーら、学生ではまかなえないスタッフの日当、備品を買う費用や食費に充てられる。学生の運営らしく、大会のドローのボードも手作りで、今年は全選手の顔写真入り。毎日のパンフレットも手作りだ。

 この大会をきっかけに、杉田祐一(最高世界64位)、伊藤竜馬(同60位)らが世界に飛躍した。また、当初の目的だった大学生の底上げは、十分に世界への扉の役目を果たしている。第1回を開催した07年に世界ランクを持っていた大学生は約40人。それが15年には70人強に増えた。

 競技力の向上だけではない。テニスをしている大学生が、すべて世界を狙えるわけではない。堀内総監督は、大会開催を「全体で見ると人間力の向上。そして絶対的な教材」と話す。大会運営に携わることで、国際交流、社会との接点、企業との交渉、お金の重要性など、テニスをしているだけでは学べないものがある。それこそが、大学のスポーツ界が目指すお手本なのではないだろうか。【吉松忠弘】


亜大国際オープンの表彰式
亜大国際オープンの表彰式
パンフレットは学生の手作り
パンフレットは学生の手作り
手作りのボードを指さす堀内総監督
手作りのボードを指さす堀内総監督