「そだね-」」で2018ユーキャン新語・流行語の大賞をに輝き笑顔を見せる本橋麻里(2018年12月3日撮影)
「そだね-」」で2018ユーキャン新語・流行語の大賞をに輝き笑顔を見せる本橋麻里(2018年12月3日撮影)

第一印象は「やっぱりそっちか」だった。12月3日、今年の「新語・流行語大賞」年間大賞に、カーリング女子で平昌五輪(ピョンチャンオリンピック)銅メダル、ロコ・ソラーレの「そだねー」が選ばれた。同じく候補入りしていた「もぐもぐタイム」は敗れた。

記者は2月の平昌五輪でカーリングを取材した。テレビ、新聞の中でいち早く「もぐもぐタイム」という言葉を報じたことがひそかな自慢だった。テレビの中継局は「おやつタイム」という言葉を使っていたが、食べているのはおやつだけじゃない。1試合約3時間の長丁場を戦い抜く栄養補給が目的で、フルーツやゼリー飲料も摂取する。だから「もぐもぐタイム」。五輪期間中は、原稿で「もぐもぐタイム」を連発した。

「新語・流行語大賞」にカーリング関連の言葉が入ると、勝手に予想はしていた。ただ「そだねー」「もぐもぐタイム」の2つも入るとは…。「そだねー」はあまりにも強敵だった。会社のデスクから「年間大賞は『そだねー』だった。惜しかったな」と言われて、思わず「そだねー」と答えて、その受賞に納得した。

「そだねー」は、主にサード吉田知那美(27)が発する。スキップ藤沢五月(27)がアイスの状態を見極めて作戦を相談する時に「ちょい右かな?」とか「真っすぐ?」という問いかけに対して「そだねー」と答える。ほっこりした印象の言葉だ。五輪という大舞台、テレビに選手の音声が流れる競技の特性から一気に火がついた。北海道出身の藤沢がメダル獲得後の会見で「そだねー、がなまっていると知らなかった」と驚いたほど、日常の言葉だ。

その効能がはっきり分かったのが、五輪後の3月に行われた混合ダブルス日本選手権。藤沢は、SC軽井沢ク(当時)のセカンド山口剛史(34)とコンビを初結成。山口はラグビーで全国大会出場の経験がある筋骨隆々の既婚者。いつ「そだねー」が出るか、注目していた。山口は引っ張りに引っ張って、準決勝の勝負どころで野太い声の「そだねー」を解禁。相手チームがくすくす笑う、突拍子のなさだったが、そのショットを藤沢が決めて勝利。そのまま優勝した。山口に「そだねー」について聞くと、笑いながらこう答えた。

山口 藤沢さんは小言が多いんです。氷が「滑るよ」というのに、心配性で「滑らないんじゃないか」とか。こっちもイライラしがちだけど「そだねー」のひと言で流せる。さらっと「そだねー」という、知那美ちゃん(吉田)は天才。

カーリングは、氷の状態が刻々と変わる繊細な競技で、選手同士のコミュニケーションが最も重要だ。うまくいかない時にギスギスしていては、試合の流れを失う一方だ。どんな時でも相手の意見を柔らかく受け入れる「そだねー」。競技と離れて言葉が独り歩きした面もあるだろうが、カーリングの知名度アップに大きく貢献したことは間違いない。【益田一弘】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

◆益田一弘(ますだ・かずひろ)広島市出身、00年入社の42歳。五輪は14年ソチでフィギュアスケート、16年リオで陸上、18年平昌でカーリングなどを取材。16年11月から水泳担当。

りんごを食べる藤沢(右)と山口(2018年3月18日撮影)
りんごを食べる藤沢(右)と山口(2018年3月18日撮影)