現場だからこそ分かる驚きがあった。15日は全国都道府県対抗女子駅伝へ。

3区(3キロ)で岡山のドルーリー朱瑛里(しぇり)が9分2秒の区間新。まだ、津山・鶴山中3年生だ。衝撃の17人抜きを披露したレース後、彼女を見た。「こんなに小さいのか」。身長157センチ。テレビで見た姿は躍動感があり、前に進む力が伝わってくる。大柄なのかと錯覚していた。

大きく映るのは、走者にとって非凡さの証しだろう。腰高のフォームで、大きなストライド。上体の動きに無駄がない。岡山の山口衛里監督(50=天満屋女子ヘッドコーチ)も「体幹がブレない走りをしている」と絶賛していた。シドニー五輪女子マラソン7位の指揮官は何よりも、ひたむきな心を評価していた。

「受け答えも私よりもうまい」と笑って、続ける。「去年のこの時期は貧血でした。食事の改善とか、すごく探究心がある。しっかり自分で考えて自分の体と相談しながら、変化に気づいている」。本格的な駅伝は初めて。岡山県では中学生が集合して練習会を行うという。ドルーリーが所属する鶴山中は女子部員3人で単独の駅伝チームを組めない。山口監督は「タスキの渡し方の練習もしたみたいです」と明かした。

ドルーリーは最初の1キロを2分55秒で突っ込み、その後も勢いを持続。次々と前の走者をのみ込んでいった。1年前も見た光景だった。群馬の不破聖衣来(当時、拓大1年)が4区(4キロ)で13人抜き&区間新記録。今大会は欠場したが、女子1万メートル日本歴代3位の記録をもつ。その不破は大類中2、3年時に同じ3区を疾走して9分23秒、9分14秒で2年連続区間賞。ドルーリーは同学年時の不破を上回る激走だった。不破とドルーリー。都大路で、立て続けに現れるニューヒロインたちが、未来の陸上界を明るく照らしている。

くしくも、この日深夜、新谷仁美(34=積水化学)がヒューストン・マラソンで2時間19分24秒をマークした。日本記録は野口みずきが05年9月に樹立した2時間19分12秒。17年、記録は更新されていない。世界記録は19年コスゲイ(ケニア)の2時間14分4秒まで下がり、日本記録より速いタイムも続出。世界との差が開いているのが現状だ。

ドルーリーへの期待を問われた山口監督はかみしめるように言う。「ちょっとずつ、ちょっとずつ上っていってもらえたら。やっぱり壊したくない」。両足のバランスがモノをいう長距離走は、小さな故障が他の部位のケガにつながりかねない、繊細な競技だ。再び世界に太刀打ちする日までホープたちの成長を温かく見守りたい。【酒井俊作】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

力走する岡山3区ドルーリー朱瑛里(左)(撮影・上山淳一)
力走する岡山3区ドルーリー朱瑛里(左)(撮影・上山淳一)
「区間賞」と「未来くん賞」を受賞、山口監督(右)と笑顔を見せるドルーリー朱瑛里(撮影・前岡正明)
「区間賞」と「未来くん賞」を受賞、山口監督(右)と笑顔を見せるドルーリー朱瑛里(撮影・前岡正明)
「区間賞」と「未来くん賞」を受賞し笑顔を見せるドルーリー朱瑛里(撮影・前岡正明)
「区間賞」と「未来くん賞」を受賞し笑顔を見せるドルーリー朱瑛里(撮影・前岡正明)
第3区の区間新記録に笑顔を見せるドルーリー朱瑛里(撮影・前岡正明)
第3区の区間新記録に笑顔を見せるドルーリー朱瑛里(撮影・前岡正明)
タスキをもらい走り出す岡山3区・ドルーリー朱瑛里(撮影・山田愛斗)
タスキをもらい走り出す岡山3区・ドルーリー朱瑛里(撮影・山田愛斗)
タスキをもらい走り出す岡山3区・ドルーリー朱瑛里(撮影・山田愛斗)
タスキをもらい走り出す岡山3区・ドルーリー朱瑛里(撮影・山田愛斗)
タスキをもらい走り出す岡山3区ドルーリー朱瑛里(撮影・山田愛斗)
タスキをもらい走り出す岡山3区ドルーリー朱瑛里(撮影・山田愛斗)
力走する岡山3区ドルーリー朱瑛里(左から2人目)(撮影・上山淳一)
力走する岡山3区ドルーリー朱瑛里(左から2人目)(撮影・上山淳一)
力走する岡山3区ドルーリー朱瑛里(左)(撮影・上山淳一)
力走する岡山3区ドルーリー朱瑛里(左)(撮影・上山淳一)