<全国高校総体:レスリング>◇2日◇横須賀アリーナ

 東京五輪の金メダリストが、20年東京五輪を担う高校生を鍛える。全国高校総体のレスリング競技は2日、横須賀アリーナで開幕。64年東京五輪フリースタイル・バンタム級金メダルの小幡洋次郎氏(旧姓上武、71)は、母校の群馬・館林高のコーチとして、男子団体ベスト8入りした後輩の活躍を見守った。5年前からOB会長として指導。半世紀前と変わらない「基本技術」を教え、45年ぶりの日本一を狙う。

 マット上の選手を見る小幡氏の目は真剣そのもの。「孫」ほど年の離れた選手の得点に拍手を送り、マットを下りると尻を軽くたたいて笑顔をみせる。「子どもたちがかわいくて。頑張っているしねえ」と目を細める。2回戦、3回戦と圧勝。「これからは相手も強くなるし、簡単じゃない」と言いながらも、選手たちを頼もしげに見つめた。

 64年東京、68年メキシコシティーと男子レスリングでは唯一の五輪連覇。72年ミュンヘン大会はコーチ、76年モントリオール大会は監督を務めた。しかし、その後は仕事に専念するために競技から離れた。家業のホテル経営を6年前に息子に託し、5年前からレスリング一筋。「平日は朝と夕方に練習。土日は遠征や試合」。都内の大学へ出げいこをするため、選手を乗せて自らハンドルを握る。

 肩書はOB会長だが、実質的にはコーチだ。針谷豊監督(42)は「僕よりも生徒といる時間は長い。レスリングへの情熱がすごいです」と話す。66キロ級の木村優太主将(3年)は「基本を何度も繰り返して教えてくれる。東京五輪の時の話もしてくれたり、勉強になります」と言う。「ルールは変わっても、構えやタックル動作など基本は同じ」と、小幡氏は説明した。

 5年前に群馬県予選で敗退していたチームは昨年の高校総体で8強。今春の全国選抜では準優勝した。高校総体で初めてレスリングが行われた54年に優勝、61年と69年にも優勝した古豪だが、小幡氏の60年は3位。「生きているうちに優勝を見てみたいけど」と言う。さらに「この中から20年の東京五輪選手が出たら、うれしいねえ」。昨年9月に五輪開催が決まってから、指導にはさらに熱が入る。半世紀を過ぎても、レスリングと母校への愛情は、少しも変わっていない。【荻島弘一】

 ◆小幡洋次郎(おばた・ようじろう)旧姓上武。1943年(昭18)1月12日、群馬県館林生まれ。館林高時代にレスリングを始め、早大から米オクラホマ州立大に留学。64年東京大会、68年メキシコシティー大会連続金メダル。現役引退後は日本代表を指導し、金メダル量産に貢献。その後は妻の実家の旅館業に専念し、北関東有数のホテルグループ(ニューミヤコホテル)に育てあげた。