天理大が「強力FW」の新兵器を携え、4年ぶり8度目の優勝を決めた。11年度には日本代表CTB立川理道らを擁し、大学選手権準優勝。帝京大と戦った決勝で国立競技場を沸かせた自慢のBK以上に、今季のリーグ戦ではFWが注目を集めた。この日の後半も、スクラムで同大を圧倒。プロップの山口知貴主将(4年)は「FW戦で優位に立てたのは自信になった」とうなずいた。

 小さく、速いFW-。近年の天理ラグビーは展開力でファンを魅了する一方、スクラム、モールなどで苦戦を強いられた。山口は「僕たちが1、2年の時は完全にBKに助けられていました。それが去年で弱みが消えて、今年に強みになった」。きっかけは関西3連覇後に訪れた低迷だった。

 3年前の13年度。前年度優勝校として臨んだシーズンで天理大は6位に沈んだ。大学選手権に進めず、翌14年も4位。小松監督は「あの2年で『あれ?』と思った」と振り返る。

 例年、天理大の試合メンバーの中心は、天理高出身者と外国人留学生。そこに、無名校出身者が半数近く名を連ねる構図だ。強豪大学の多くは年代別日本代表クラスを多く迎えるが、天理大は別路線を歩む。指揮官は「体の大きい子は、みんな関東や関西の他の大学に行く。逆に体は小さいけれど『天理のラグビーに憧れて…』と意欲的な高校生が入ってきてくれます」。その特徴を踏まえ、突き詰めていたのがBKが輝く展開ラグビーだった。

 だが、低迷した2年間には、スクラムやモールだけで敗れる試合があった。小松監督も「そりゃあ、でかいFWも欲しいですよ」と本音に漏らす。その苦しみを今年のチームは打破した。高校2年時に天理大全国準優勝を見て入学した現4年生らが、新しいラグビーに手を伸ばした。

 この日、右プロップで先発した木津悠輔(3年)はラグビー無名校といえる大分・由布高の出身。NO8で入学も、1年途中に自ら「上を目指したい」とプロップ転向を申し出た。控えフッカーの谷井連太郎(3年)は小松監督が「あいつ、スクラムだけは強いです」という選手の言葉を聞き、Aチーム(1軍)で試した。現在はチーム全員で週3回、早朝にウエートトレーニングを行う。同大戦のFW平均体重は100キロとずばぬけて重くないが、体の質を高め、以前と変わらない条件である走力を持ったメンバーがそろった。

 9月にはトップリーグ屈指のFW陣を誇るヤマハ発動機に出稽古。小松監督は「技術を引用している訳ではないですが、練習の意識、考え方、雰囲気…。そういう勉強にすごくなりました」。意欲的な面々はそれを天理大に持ち帰り、強化の材料にした。

 関西では圧倒した天理大FW。次は大学選手権での対関東勢で真価が問われる。山口は「相手の体も大きくなるけれど、負ける気はない。スクラムでも勝っていくつもり」とキッパリ。そして「立川さんの代より『FWは強い』と言われるけれど、おごらず、リスペクトを持って。その上で自分たちの力を出したい」と続けた。近年にないFWとBKのバランス。8連覇を目指す帝京大など強豪校を脅かす準備が、奈良の地で着々と進んでいる。