新時代の競技用カヌーの幕開けだ。東洋大は1日、都内の同大で国産カヌーの開発発表会を行った。関連産業界とタッグを組んで開発したのは、既成概念を根底から覆す、ボディーに穴のあいたカヌー。実験艇「水走(みつは)0号」には選手が座るコックピットの下に水を取り込むダクトが備わっていた。独創的なフォルムで、関係者の度肝を抜き、20年東京五輪へ挑む覚悟を示した。

 本来のカヌーをイメージしていた出席者は、「水走0号」の姿に驚きを隠せない。形状を隠すためペインティングが施されているが、船底には穴がある。ジンベエザメの大きな口とエラのようだ。研究開発責任者の東洋大理工学部生体医工学科の寺田信幸教授がうれしそうに言った。

 寺田教授 これが水走スタイルです。この穴から水が入り、スタート時の加速が増します。当然、欧州などのカヌー強国に見られてしまいますが、まねをされればまた改良します。この形状を特許申請しています。そんなに簡単にまねできる技術ではありません。

 上流から下流への水流を「口」から「エラ」を通して味方につけるダクトは、物作りニッポンを印象づける挑戦。ボブスレーでは「下町ボブスレー」として東京都大田区の中小企業の技術を結集し、斬新なそりを開発したが、今回はそれ以上のインパクトを与えた。

 東洋大が進める産学連携プロジェクトの目玉の1つとして、国産カヌーの開発に乗り出した。理工学部が「知」を担い、「技術」ではテックラボ(東京都多摩市)が船艇製作、浜野製作所(東京都墨田区)がコックピット製作を担当した。

 昨年のリオ五輪で羽根田卓也が銅メダルを獲得して話題になったスラローム種目用のカヌーで、製作費は約2000万円。トップ選手の多くが東欧製で、羽根田が使っているものは1艇30万円前後だけに、破格だ。来年には選手を乗せ、改良した水走1号で競技大会出場を目指す。同じく開発責任者の望月修教授は「東京五輪で水走で金メダルを」と意気込む。水の神様として古事記にもその名が登場する水走は、日本の技術と発想力の粋として、注目される。【井上真】

 ◆テックラボの白石勝取締役の話 オリジナルの船艇なので一からの作業でした。サメの口のような部分はダクト、エラのような所はフィンと呼んでいました。教授たちの考えに基づき、調整しながら形をつくっていきました。

 ◆カヌー 直線コースで争うスプリントと、急流に設置された関門をくぐり抜けながらタイムを換算したポイントを競うスラロームがある。パドルに水かきが1枚のカナディアンと、両端に2枚ついたカヤックがある。五輪では1936年ベルリン大会から実施。昨年のリオ五輪ではスラローム男子カナディアンシングルで羽根田卓也が銅メダル。