女子テニスで“エリマコ”こと穂積絵莉、二宮真琴(ともに24=橋本総業)組は、全仏女子ダブルス決勝で惜しくも敗れ、日本女子ペアとして4大大会初の優勝を逃した。穂積の母盛子さんは、急きょ日本から駆けつけ、センターコートの観客席から、娘の姿を目に焼き付けた。二宮の母圭子さんは、日本から電話でハッパを掛けていた。母が支え続けた2人のテニス人生が、敗れたとはいえ、赤土世界最高峰の舞台を経験し、花を咲かせつつある。

 二宮は、敗戦後、圭子さんの電話に苦笑いだった。父真吾さんは、最後のスマッシュミスに「あのスマッシュはずっこけた」。圭子さんは決して怒っているわけではないが、ハッパを掛けるような口調で言った。「もっとリターン、前に入れるでしょ」。それは、いつもの母だった。

 口癖は「困ったら、相手にぶつけろ」だ。圭子さんは「私、そうやって(テニスを)習ったような気がする」と照れた。「私は、どっちかというとガツガツ行ってほしいタイプ」と、気持ちを前面に押し出すタイプだった。

 二宮が小学生の頃、住んでいた広島から自分の運転で娘を乗せて中国地方を転戦した。圭子さんは保育士だった。遠征のたびに休みを取っていた。心苦しかった。「試合は土日にあるから、毎週毎週、土曜に休みをくださいと言うのがすごく言いづらかった」。スケジュールがある程度、自由がきくコンビニなどのパートに転職した。

 二宮は、子どもの頃、極端な人見知りで、引っ込み思案だった。「慣れたらしゃべるんですけど、慣れるまでが本当に時間がかかる」。コート上で感情を表すことも少なかった。ある日、圭子さんは、岡山から広島に帰る高速道路を走る車中で、トップ選手セリーナ・ウィリアムズのビデオを見せた。

 セリーナの「カモーンって言うのをまねしてみて」。二宮は言わなかった。圭子さんが「何で言わないの」と問い詰めると「言うタイミングが分からない」。そこで「セリーナがショットを決めるたびにカモーンと言って」と教えた。それでも二宮の反応は鈍く「根負けしました」。

 それから時が過ぎた。全仏の赤土コートの上で、穂積を引っ張る二宮の姿があった。準決勝に勝った時、子どものような笑顔でスキップし、穂積に抱きついたのは二宮だった。この日、準優勝の銀のプレートを手にすると、優勝のトロフィーを眺めて「私トロフィーにチューしたかった。イメトレしてたのに」。

 そして自分のテニス人生を左右する決断をした。「シングルスを捨ててでもダブルスを究めたい」。2020年、東京五輪でダブルスを狙うために、ダブルス優先でツアーを回ると決めた。今回、圭子さんはパリに来なかった。二宮は言った。「次、もう1回、決勝の舞台に立って、呼べるように頑張る」。