日大アメフト部第三者委員会が29日、中間報告記者会見を都内で行った。日大選手の悪質タックルは「内田正人氏と井上奨氏の指示で行われたものである」と指摘した。報告書要旨の全文(原文まま)は以下の通り。

 

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中間報告書要旨

平成30年6月29日

日本大学アメリカンフットボール部に

おける販促行為に係る第三者委員会

 

第1 本中間報告書の目的

現時点までの調査結果を踏まえ、本件反則行為に係る事実関係につき判明した内容を中間的に報告し、日大において今後可及的速やかに適切な措置を講じていくために必要な示唆を与えることを目的とする。

 

第2 事実関係の概要等

1 内田氏体制下における日大アメフト部の指導方針・指導状況

 内田氏は平成29年1月、日大アメフト部の監督に復帰したが、前年の成績が振るわなかったこともあり、指導方針を一変させ、選手やコーチに厳しく接し、練習時間もランニング量も大幅に増加させるとともに、時に選手を精神的に追い込むような苛烈な指導方法を取るようになった。

 内田氏のこのような厳しく冷徹な指導方針の中で、コーチも萎縮し切り、その指示には黙って従うことが当然となっていた。取り分け、選手においては、反抗はおろか、自分なりの意見を述べることなどおよそ許されない雰囲気があり、内田氏とのコミュニケーションは極めて乏しい状況であった。

 なお、内田氏は、選手に対し、アメフトのルールについてこれを遵守する重要性を説くことはなく、反則行為をおそれたプレーを戒めるだけで、むしろ普段から反則行為を容認するかのような指導を行っていた。

2 井上氏の指導状況、役割等(特にA選手との関係)

 井上氏は、ポジションコーチとしてディフェンスの選手に対する指導等を担っていたところ、内田氏が監督に復帰後、前年とは異なり、内田氏の基本方針の下、選手に対し厳しく接するようになり、特に、高校時代から師弟関係にあったA選手に対しては、心身両面にわたって強い負荷をかける指導方針を取るようになった。

 また、井上氏は、内田氏の意向には万事無条件で服従する傾向にあり、周囲には内田氏のお付きないし小間使いようのうな存在と認識されていた。そうしたことから、選手からの信頼も希薄となっていた。

3 A選手が本件危険タックル等に及んだ経緯、状況

 A選手は、本件試合に至る練習等において、内田氏や井上氏から精神的に過酷な指導を受ける中で、両氏からルールを逸脱した危険なタックルの指示を受け、これを実行したものである。

 

第3 本件危険タックルを含む一連の反則行為が内田氏や井上氏の指示に基づくものであったか及び当該指示が相手選手に対する傷害の意図を含むものであったか。

1 事実認定の基本的考え方

 A選手の説明は全般的に信用できるものと判断し、これを事実認定の基本に据え、他の信用できる関係証拠も総合考慮し、本件一連の反則行為が内田氏や井上氏の指示に基づくものであったこと及び当該指示が相手選手に対する傷害の意図を含むものであったと認定した。

 他方、これに反する内田氏及び井上氏の説明は、不自然かつ不合理で、信用できる関係証拠とも矛盾することなどから、信用することができない。

2 A選手の説明が信用できること

 A選手の説明は、全体として、信用できる他の関係証拠ともよく符合し、内容においても合理的かつ自然である。また、A選手が本件を深く反省し自己に不利な内容も含めて詳細な説明をしていることや、関係者へ強い謝罪の意を表することともに、今後アメフトのプレーを断念するとの決意を固めるなど、保身の意識は感じられないこと、自ら公開のばに姿を現し記者会見を行ったことはその姿勢の表れと評価できることなどから、その説明には高度の信用性が認められる。

3 内田氏及び井上氏の弁解が信用できないことなど

(1)井上氏の弁解が信用できない理由

 井上氏は、A選手に対し、あくまでルールの範囲内でのプレーを指示したに過ぎず、本件反則行為はA選手が勘違いした結果であり、もちろん相手選手に怪我をさせる意図などなかった旨弁解しているが、信用できない。

◆井上氏の指示はきわめて具体的であり、その内容はA選手に対し本件危険タックルの実行を命じたものにほかならないこと

◆本件危険タックルを実行すれば相手選手が負傷する可能性は極めて高く、井上氏もそのことを認識していたと認められること

(2)内田氏については、井上氏による反則指示を事前に了解していたことを示す複数の事実が認められ、その弁解は信用できないこと

 内田氏も、A選手に対する上記指示を一切否定し、A選手が勝手にやったことである旨弁解しているが、内田氏が、井上氏によるA選手に対する反則指示を少なくともあらかじめ了解していたことを示す複数の事実が認められ、その弁解は全く信用できない。むしろ、日大アメフト部における内田氏と井上氏との力関係等からすれば、内田氏が積極的に井上氏に指示してA選手に本件一連の反則行為を行わせたことも十分にうかがい知ることができる。

 また、内田氏についても、相手選手に対する傷害の意図があったと認められる。

◆井上氏と内田氏の力関係等からして、井上氏が内田氏に独断で本件危険タックルを指示したことは考えがたいこと

◆本件試合に向けた練習の中で、内田氏自らA選手に強いプレッシャーを掛けていたこと

◆井上氏のA選手に対する指示の具体的内容や、本件試合開始直前に内田氏の了解を得られたことによりA選手が急きょ出場できるようになった経緯等から、井上氏と内田氏との間にあらかじめ意思の連絡があったことが推認されること

◆内田氏が本件危険タックル直後、その事実を認識しながら、その後もA選手のプレー続行を容認していたことは内田氏においてA選手が本件危険タックルを実行することをあらかじめ承知していたことを示していること

◆内田氏の試合後の発言や囲み取材におけるコメントも、内田氏が本件危険タックルを含む一連の反則行為を指示・容認していたことを肯定する内容であったこと

 

第4 本件タックルの危険性、本件の悪質性

1 本件タックルの危険性

 本件危険タックルは、A選手が、パスを投じた後脱力して無防備となっていたB選手の背後から、その腰部ないし大腿部にかけた部位に向け、走り込んできた勢いのまま突進し、右肩及び頭部ヘルメットを衝突させるという態様で敢行されたものであり、その危険性は非常に高いものであった。仮にB選手が転倒時に頭を強打していれば脳出血になっていた可能性が認められ、また、膝の負傷についても場合によっては深刻なじん帯損傷になっていた可能性もあったものと考えられる。

2 本件の悪質性

(1)本件危険タックルを含む反則行為の指示

 本件は、内田氏及び井上氏がA選手にルールを逸脱した危険タックルを指示実行させたという、およそスポーツマンシップのかけらも見られない極めて悪質な行為である。このような行為は、自チームの強化・勝利を何よりも優先させ、反則を敢行することとなるA選手の心情・人格を一顧だにせず、対戦相手及びその選手に対するいささかのリスペクトも配慮も持ち合わせない、傲岸不遜な態度の現れであると同時に、アメフトという競技に対する冒とくでもある。

(2)責任回避の態度

 A選手の行為自体、決して許されるものではないが、それを指示しておきながら、これを否定して不自然・不合理な弁解を重ねるばかりか、A選手との認識のかい離であるとかA選手の勘違いであるなどと責任回避の態度に終始する内田氏、井上氏にはアメフト指導者としての資質が欠けているといわざるを得ない。

 

第5 今後の予定

 今後、本件を招いた原因ないし背景の究明、日大によるアメフト部に対するガバナンス体制の検証及び再発を防止するための対策などにつき、引き続き所要の調査を遂げた上、本年7月下旬を目処に、最終的な報告を行う。

 なお、本件発生後、一部の日大関係者が学生等に対し不当な圧力をかけ、あるいは口封じを行って事件のもみ消しを図ろうとした事実が判明している。このことは、事後対応上の問題点として看過できず、今後、日大のガバナンスのあり方を検討する上で十分勘案していかなければならない。

 また、日大アメフト部の再建は、内田氏、井上氏はもちろん、不当な圧力、介入を行った日大関係者が完全に排除された状態で行われなければならない。

 日大が行っているアメフト部の監督公募については、外部の方を交えた公平公正な選考委員会を設け、選手、父母会、OBの方々の声も反映させながら、透明感を持って選考手続きが進められることを望む。当委員会は、そのような手続きを経た上で、内田氏の指導方針を根本的に改め、反則行為を明確に否定し、教育的観点をもって指導を行える方であるとともに、選手はもちろん、父母会、OB会の方々、他大学の監督、関東学生アメリカンフットボール連盟等の多くが納得できる適切な方が指導者に選定され、その指導者の下で、内田氏の影響力を完全に遮断したコーチ陣が新たに編成され、日大アメフト部が再建の一歩を踏み出すことを期待するものである。

以上