男子90キロ級決勝で向翔一郎(23=ALSOK)が18年世界選手権銅メダルの長沢憲大(25=パーク24)に指導3の反則勝ちを収め、2年ぶり2度目の優勝を飾った。

独特の柔道スタイルと強靱(きょうじん)なスタミナを武器に1回戦から3試合連続で延長戦を制し、世界選手権(8月25日開幕、日本武道館)代表に大きく前進した。男子100キロ超級は原沢久喜、女子78キロ超級は素根輝が制覇。大会最終日の7日に最重量級を除く男女6階級の代表が決まる。

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「柔道界の異端児」が進化を遂げた。向は頭を左右に振るキックボクシングの間合いで、隙を狙って猛獣のように襲いかかった。得意の背負い投げと多彩な足技を中心とした連続攻撃で圧力をかけ続けた。決勝延長1分44秒、長沢の3つ目の指導を引き出して勝負あり。両膝を畳につけ、両手で顔を覆って感極まった。「ここで負けたら東京オリンピック(五輪)はないと覚悟していた。初心に戻ったことで正解が分かった。支えてくれた人に感謝しかない」と涙した。

2月のグランドスラム(GS)パリ大会3位決定戦で長沢に敗れた。世界選手権代表の可能性も薄れて「食事が喉に通らなかった」。拠点とする母校日大の金野潤監督からも大学1年の時の方が「もっと練習していた」と指摘された。「凡事徹底」(当たり前のことを徹底的に行うこと)を合言葉に、練習量を増やして稽古に没頭した。今大会は、代表争いでほぼ横並びの長沢やリオ五輪金メダルのベイカー茉秋らライバルの対策をあえてせず、己の柔道だけに徹して優勝を手にした。

天真らんまんな性格で、柔道のみならず向流のスタイルを貫いてきた。発言や髪形なども個性的で周囲を驚かせることもあった。大学4年の夏には度々遅刻を繰り返したことで柔道部に出入り禁止。退寮も余儀なくされ、警視庁や国士舘大などでの1人出稽古生活が続いた。仲間の助けで3カ月後に金野監督に謝罪し、再び柔道部に受け入れられ、素行を猛省した。

学生時代は自身のことを「天才」と豪語していた23歳が今では、仲間への感謝の気持ちを常々口にする。初の個人での世界選手権代表も近づき「これまで迷惑をかけてきた人たちのためにも五輪で恩返ししたい。柔道で成長した姿を見せたい」と前を向く。混戦の90キロ級代表へ、あとは吉報を待つだけだ。【峯岸佑樹】