31年の時を刻んだ「平成」は、日本フィギュアスケート界にとって、人気競技への階段を駆け上がった躍進の時代となりました。スケーターの多くが世界のトップクラスとなり、国内での国際大会代表争いは激しさを増しています。

30日まで続く連載「令和に羽ばたくスケーター」では、平成最後となった今季の雪辱を期す選手たちを取り上げます。第1回は女子の三原舞依(19=シスメックス)。「3位」と「4位」の差を痛感する、大学2年生の思いに迫りました。

220・80点。5位に23・17点の大差をつけながらも、18年12月に行われた全日本選手権でたどり着いたのは「4位」だった。12月23日のフリー。最終滑走で同門の坂本花織(シスメックス)が228・01点をたたき出した瞬間、三原はほほえみながら上位3人の待機場所を離れた。19年3月の世界選手権出場枠は「3」。表彰台を逃したことの重大さは、誰よりも自分が分かっていた。

「去年の全日本だけじゃなくて、一昨年(平昌五輪シーズン)のグランプリ(GP)シリーズ2戦、去年の(GP)1戦も4位。4位と3位の違いは、死ぬほど分かっているんです。でも、仮に自分の演技に対して満足していたとしても、何かが足りないからその順位であり、点数になっている。良かった選手、点数が出た選手っていうのは、私に足りないものを持っていて、私以上のものがあるんだと思います。それに対して心から『おめでとう』という気持ちがあります。でも、悔しさはありますね」

三原はいつも、正直に他のスケーターに対するリスペクトを言葉にする。一方、競技者として当然の「悔しさ」も心の奥底にある。

年末は悶々(もんもん)とした時間が続いた。「正直、ちょっと引きずりました…」。自らの演技動画を何度も再生し「ここがダメ。ここもダメ」と心の中でつぶやいた。体の動かし方、目線が理想と少し違う。自然と悪いところばかりに目がいった。

「結果の悔しさはいつも自分に向きます。『身長が小さいのかな』とかまで思ったりしますからね(笑い)。まあ、それは関係ないと思うんですけれど、そこまで思いこんだり、考え込みすぎるタイプなんです」

五輪有力候補として臨んだ昨季も、ショートプログラム(SP)のタンゴに苦しんだ。出遅れが最終的な順位に響くことが多く、結果として平昌五輪切符をつかむことはできなかった。

「五輪シーズンは、考え込む自分しかいなかったですよね。その度に『あ~あ』となって、どんどん自分でマイナスにしていった」

そんな三原だが、意外なきっかけから前を向いた。

「2019年1月1日から何をしたっていう訳でもなく、なんか気持ちが晴れて、考え方がポジティブになりました。いい意味で吹っ切れた。だから、今季はいいことも、悪いこともあったけれど、気持ちのコントロールという面で、成長できたシーズンになったと思っているんです」

3位に滑り込んだ2月の4大陸選手権、日本代表の主将として優勝した3月のユニバーシアードを経て、新しい自分が姿を見せた。

「深くは考えるんですけれど、深く考えすぎた後に『ちょっと落ち着いている自分』が『深く考えすぎる自分』を、うまく抑えられるようになったんです」

昔から存在する「深く考える自分」と、新しく生まれた「客観的に見る自分」。苦悩のシーズンを経て、2つの「自分」による、理想のパワーバランスを見つけたようだ。

「両方の自分にフォーカスして、両方を成り立たせたい。悔しさも大事にするし、対処の方法も知っている。そうなれたら、一番強い人になれると思うんです。五輪シーズンに考え込みすぎていた自分も『何でか知らないけれど(どんどんマイナスに考えていた)』と感じる(笑い)。今、そう思えるようになっているのが、客観的に見えている証拠だと思うんです」

令和元年の来季に向け、ハート形の色紙には迷うことなく「世界選手権 出場する!!」としたためた。今季はひと足早くシーズンを終え「私も混ざりたかった。まだ足りていないところがたくさんあるので、それを克服していきたいです」と自国開催だった3月の世界選手権を見つめた。では、目標を達成するためには何が必要なのか-。それは「深く考える自分」が、すでに見つけている。

「やっぱりショートプログラム(SP)。ショートは大会の最初の演技になるんですよね。そこから思い切っていける、強いスケーターになりたい。例えば、体が動きにくい朝練の1本目のジャンプ。そこがミス無くできれば、本番の心配もなくなると思うんです」

技術、メンタル面での課題を掲げ、今度は「客観的に見る自分」が、まもなくやってくる「時代の分岐点」を冷静に分析した。

「4月1日に『令和』が発表される歴史的瞬間を家のテレビで見ていて、感謝の思いが出てきたんです。『この世に私を生んでくれてありがとう』という家族への感謝と、平成の間にスケートを教えてくださった先生たちへの感謝。この時代にいることの幸せ、感謝を、令和の試合で示していきたいと思います」

8月22日に迎える二十歳を前に、三原の内面が変化を始めている。【松本航】

 

◆29日の第2回は男子の友野一希(20=同大)です。