男子86キロ級を五輪2大会出場の高谷惣亮(30=ALSOK)が制し、昨年末の全日本選手権に続く優勝で、世界選手権(9月、カザフスタン)の代表切符をつかんだ。

決勝では全日本で接戦を演じた松坂誠應(24=自衛隊体育学校)と激突。開始30秒でフェイントを混ぜながらの2段モーションで鋭く低く飛び込んでテークダウンを奪うと、軽快なフットワークで相手タックルをいなす守備力も見事に、8-0で完勝した。

「タックルの軌道が見えるんです」。優勝恒例のパフォーマンスで日向坂46の「キュン」のダンスを披露した後に、新境地を激白した。いわく「目からヒモっぽいものが伸びている感じで。それにつられて体が流れていく」と独自の感覚を説明。この日の最初のタックルも相手の腰が浮いている様がわかり、導かれるように軌道に乗った。

「余裕があるからでしょうね」と、階級増の効果を口にする。リオデジャネイロオリンピック(五輪)時の74キロ級から、この日は12キロ増の86キロ級。昨年の全日本選手権が新階級初戦で、それから半年で適応能力が増すばかり。74キロ級のスピードを維持したまま増量に成功しており、「相手の動きが遅く感じる」。それが軌道を生む一因と捉えている。

4月に30歳を迎え、その端正な顔立ちからついた「タックル王子」の愛称も、「いまは『タックルおじさん』ですから」と自嘲するが、周囲からは「30代には見えない」の声の連発に、自身も「(12年)ロンドン五輪の時より強い」と衰えはみじんも感じない。

3月には国際大会で世界2位を撃破するなど、早速実力を証明している。14年に銀メダリストとなった世界選手権は、今年は表彰台で東京五輪出場権を手にできる。五輪では届かない表彰台へ挑む集大成の母国五輪へ。「86キロ級は減量がない。自分のレスリングと真摯(しんし)に向き合える。前向きに戦える」。海外勢が圧倒的に強い新階級で、世界を驚かせる。