女子57キロ級で前人未到の五輪5連覇を目指す伊調馨(35=ALSOK)が苦戦を乗り越え、今日16日の決勝に駒を進めた。1次リーグ、準決勝と足を取られるなど反省点が多い中、昨年の全日本選手権決勝で破ったリオデジャネイロ五輪金メダルの川井梨紗子(24)との再戦を迎える。勝てば東京五輪代表権のかかる世界選手権(9月、カザフスタン)代表に決定。負ければ川井梨とのプレーオフ(7月6日)となる。同62キロ級の川井友香子(21)、男子フリー57キロ級の高橋侑希(25)、同グレコローマン130キロ級の園田新(24)が世界代表に決まった。

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決勝進出を決める準決勝の勝利のホイッスルは、タックルに来た相手に右脚を抱えられたまま聞いた。1次リーグから3試合目、この日の伊調を象徴するような光景に笑顔もなかった。「やはり練習と試合のギャップというか、練習通りにというのは本当に難しいと実感できる。そこを乗り越えないと…」。

1次リーグ初戦の序盤、16歳下の花井に片足タックルで右足を捕獲された。ガツンと受け止め、逆に寝技で得点につなげるなど8-0で白星発進も、第2戦の坂上にはリードされる場面もあった。相手の負傷でフォール勝ちはしたが、準決勝でも懐に飛び込んだ南條に脚をつかまれ、がぶり返せないなど、守備巧者ぶりは鳴りをひそめた。「57キロはみんな接戦。大差ない」との本人の弁だが、やはり五輪4連覇時からは、自らの感覚が違うのだろう。

失点数で見ると、ルール改正後の13年からリオ五輪までは47試合で14点だった堅守が、昨年10月の復帰以降は13試合で21点と急増している。あえて相手に入らせてカウンターで背後に回るなど往年の得意パターンを再現できない。中学時代の恩師の沢内氏も「あんなに簡単に脚を取られるのは…。できていたものができないイライラはあると思う」とおもんぱかる。

決勝で川井に勝てば4年ぶりの世界選手権代表となり、そこで表彰台なら東京五輪が決まる。昨年の復帰後、故障も重なり順風ではない。4月のアジア選手権でも敗れた。この日も自らを「挑戦者。アジア王者にもなれなかった」とよどみなく言った。思い通りに動かない体と向き合い、挑むしかない。【阿部健吾】