大野は強い。結果はもちろんだが、その戦い方が抜けていた。相手をしっかりと受け止め、そこに自分の強みをぶつけてたたきつぶす。

まさに「横綱相撲」。他の選手と大きな実力差がなければできないことを、簡単にやっていた。

今回は、これまでの大野と違っていた。相手と戦うのではなく、自分自身との戦い。多くの選手が「自分の柔道を」というが、実際には相手を研究して勝てる方策を探すもの。大野にはそれが見えなかった。戦っている相手は「理想の柔道をする大野」自身だった。

一般的に柔道選手の身体的、精神的なピークは20代半ばにやってくる。そこから成長するには、1つステージを上げる必要がある。周りを気にせず、自分のスタイルを追求して柔道を完成させる。柔道選手から柔道家になる時。私も24歳のバルセロナ五輪で金メダルを取った後、そういう気持ちになった。大野も24歳でリオ五輪に勝っている。

国内外を見渡しても、今の大野を追う選手は見あたらない。五輪前年の世界選手権だが、上位はみな同じ顔ぶれ。その優位は動きそうにない。1年後、同じような結果になる可能性は高い。それほど、今の大野の心身は1つも2つも抜けている。(一般社団法人古賀塾塾長)