照りつける太陽の下、東京オリンピック(五輪)のニューヒロインが誕生した-。17歳の松田詩野がアジア最上位の15位となり20年東京五輪の出場権を獲得。条件付きながら、初めての五輪日本代表の座に限りなく近づいた。16人が進出した4回戦1組3位で回った敗者復活戦で7回戦まで進出。同6回戦で敗退した前田マヒナ(21)をわずかにかわして、夢の東京キップをほぼ手中にした。

赤のジャージーを着た松田が高い波に乗った。柔軟な下半身を生かして華麗にターンを決め、得意のオフザリップを見せて6・33。次に乗った波で5・67を出して2位につけ、そのまま逃げ切って敗者復活6回戦を突破。「自分のサーフィンが出せた」。158センチのヒロインは笑顔で言った。

アジアのライバルが次々と敗退し、前田マヒナとの争いになった。ともに日本チームの団体優勝を目指して共闘するが、五輪出場権は別だ。アジア最上位のキップは1枚。同じ6回戦で前田が敗れた瞬間、アジア1位が決まった。続く7回戦で敗れ、目指していた個人優勝は果たせなかったものの「CT(チャンピオンシップ)選手とも十分に戦えた」と胸を張った。

「五輪に集中したい」と話していた通り、この大会にかけていた。2週間前にはトレーナーとともに宮崎入りし、木崎浜の波を乗り込んだ。今大会は台風の影響などで風が強く、波の表情も日ごとに変わったが、それにも対応。「この試合のために練習してきたのが生きた」と言い切った。

16年8月4日、初めてサーフィンが五輪で実施されることが決まった日の早朝4時半、13歳の松田は先輩サーファーたちと千葉県内で会見に臨んだ。「勉強もあるけど、サーフィンで東京五輪に出たい」と目を輝かせた「天才少女」は、その後3年間で強く、美しく成長。全日本優勝、世界ジュニア2位など実績を積んで、夢を手に入れた。

アジア最上位の出場権とともに、五輪へのラストチャンスとなる来年のワールドゲームズ(WG)出場も確実にした。他の日本選手2人が上位に入った場合、今大会で得た権利は失うが「もっと成長して、来年のこの大会では上を狙いたい」。東京五輪の新しいヒロインは、目標である「憧れてもらえる選手になりたい」に大きく近づいた。【荻島弘一】

◆松田詩野(まつだ・しの)2002年(平14)8月13日、神奈川・茅ケ崎市生まれ。6歳の時に両親に勧められて地元のサーフィンスクールに入る。初日に波に乗り、周囲を驚かせた。茅ケ崎一中2年の16年に全日本選手権優勝、18年には世界最高峰チャンピオンシップツアー(CT)の予選シリーズである一宮千葉オープンで優勝。ジュニアの日本代表としても活躍している。右足を前にしてボードに乗る「グーフィー」スタンス。158センチ、48キロ。

<東京五輪への道>

出場選手は男女各20人。サーフィンは優先順位と大会の順が異なるため複雑化している。最優先はCTで12月の今季終了時点で女子上位8人、男子同10人(1カ国2人で繰り下げ)が決定。残り女子12人、男子10人が2回のWGで選ばれる。

CTの次に優先されるのは20年4~5月の間に行われるWG(開催地未定)。CTで出場権を得た選手を除く上位を選出。女子は6人だが、日本のアジア枠獲得で消滅した開催国枠を加え7人になる。男子は4人。仮にCTですでに出場権を得ている選手8人全員が上位に入れば、15位でも出場権が得られる可能性はある。

20年WGの日本女子代表は3人。松田は確定で、都築らが争う下部ツアーの予選シリーズ(QS)ランキング最上位とジャパンオープン(来年4月)優勝者が入る。ここで松田を除く2人が出場権を得ると、松田の出場権は消滅、日本勢を除くアジア最上位選手に回る。ただし、最終予選だけにハイレベルな戦いが予想され、現実的な目標は松田に続く残る出場権1の獲得となりそう。