【ヌルスルタン=阿部健吾】男子フリースタイル74キロ級で奥井真生(24=自衛隊)が東京五輪出場枠を獲得した。敗者復活戦を勝って臨んだ3位決定戦では、12年ロンドン五輪覇者のジョーダン・バロウズ(米国)に敗れたが、5位以内の条件を満たした。70キロ台の階級で五輪前年大会で枠を得るのは、制度開始の99年大会以降初めて。大学までグレコローマンスタイルとの二刀流で活躍した力自慢が、初出場で大きな仕事を果たした。

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高い壁を感じることが、1年後への視界を明瞭にした。奥井は「半々ですね」と言った。3位決定戦はレスリング界きってのスター選手、五輪王者、世界王者4度のバロウズのタックルを防げずにテクニカルフォール負け。「一発でガツンとくる。スピードと重みがあった」と衝撃を体に残しながら「半分は戦える。半分は足りないところ」。大会を通じた実感が世界では無名のレスラーには収穫だった。

前日は準々決勝で敗れ「もっと上かなと思ったら、もう少しで手が届きそうで」と悔しがった。167センチと階級では小柄だが、一切力負けしなかった。それはこの日も同じ。敗者復活戦では第1ピリオドでリードを許したが「焦りはあったが、後半絶対にとれると思った」。引き落としからのタックルを見舞い、残り35秒で逆転した。

国士舘大まではグレコとの二刀流でならした。全日本大学選手権では、88年ソウル五輪金の小林孝至が82年に記録して以来32年ぶり2人目となる、1年生で両スタイルを制覇した。「差し、がぶり。グレコの技術的なところを生かせている」とフリーに持ち込む。

所属先で指導するロンドン五輪金の米満コーチは、肉体にも目を見張る。守備面が長所で、タックルに入っても体幹の強さで切られるという。「取れるかなと思ってもぶちっと切られる。体幹の太さは海外の選手みたい」と舌を巻く。高校時代から徹底的にウエートトレで鍛え上げ、日本人離れの肉体を手に入れた。

70キロ台の階級は五輪では96年アトランタ大会で太田拓弥が3位になって以降苦戦が続く。世界に飛び出した二刀流レスラー。年末の全日本選手権を制すれば代表に決まる。「まずは枠を自分のものにする」。残り半分を埋める日々が始まった。

◆奥井真生(おくい・まお)1995年(平7)9月8日、和歌山県生まれ。熊野路ジュニア教室で競技を始め、和歌山工高から国士舘大卒で自衛隊入隊。16、19年全日本選抜優勝。今大会は藤波とのプレーオフを制して代表権獲得。国際大会は18年世界大学選手権2位など。誠実な性格で自衛隊では模範的選手。猫好き。歌手では尾崎豊、浜田省吾を聞く。身長167センチ。