新しい「聖地」が誕生した。日本スポーツ振興センター(JSC)は15日、国立競技場(東京都新宿区)の竣工(しゅんこう)式を行った。来年の東京オリンピック(五輪)・パラリンピックのメインスタジアムを400人を超える報道陣にも完成後、初めて公開した。

47都道府県から調達するなど全体で約2000立方メートルもの木材を使い、明治神宮外苑の環境に調和するよう配慮された「杜(もり)のスタジアム」。外観、植栽に覆われた最上部のコンコース「空の杜」、最大傾斜34度で臨場感を重視したスタンドなどが披露された。整備費は1569億円。

   ◇   ◇   ◇

階段を4階まで上り、スタンドの入り口に立った。1歩足を踏み入れると、目の前に赤茶けたトラックと緑のピッチが広がる。初めてのスタジアムは、いつも興奮する。あの「国立」の生まれ変わりなら、なおさらだ。目を閉じて深く息を吸うと、神宮の杜の緑と木のニオイが鼻に染みた。

「どうだろう?」。期待半分で座席の後ろに立った。観客席はすり鉢状の3層構造。1層部分は20度と緩やかな傾斜、3層でも34度。陸上の100メートルなど、注目種目も見やすい。加えて「ピッチが遠く感じるかも」という思いも、一瞬で消え去った。意外なほど近い。もちろん、球技専用スタジアムには劣るが、それでもトラックは気にならないほど。横浜国際総合競技場で感じるような「もどかしさ」はない。

海外のスタジアムに目が慣れているせいか、決して大規模という感じはない。もちろん、旧国立の2倍もの面積だから大きいのだが、屋根があるせいかコンパクト。白紙撤回されたザハ案のような近未来感もない。木と緑に覆われた、落ち着いた外観。巨大は巨大なのだが、周辺の景観にはなじむ。ザハ案と比べると「地味」かもしれないが、10年、20年先には、いい具合に見慣れてくるはずだ。

旧国立のメインスタンドから数々のドラマを見てきた「野見宿禰(のみのすくね)」と「勝利の女神」の像は青山門に飾られた。64年東京五輪の聖火台も移設される。レガシーとして生き続ける。ロンドンのウェンブリー、リオのマラカナンなど「聖地」には必ず歴史がある。緑のピッチを眼下にし、次に見るドラマに胸が躍った。【荻島弘一】