1月の全国高校ラグビー大会で準優勝だった御所実(奈良)のオンラインミーティングに20日、記者が“潜入”した。緊急事態宣言が解除された奈良だが、県立の同校は5月末まで在宅教育期間。新入生は入学後に練習さえできていない。強豪校の「今」に迫った。【取材・構成=松本航】

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午前10時。オンライン会議システム「ZOOM」の部屋に、78人がそろった。

「お~い、○○。今、起きたんか~? 日常生活に戻っても、大丈夫か~?」

「課題はどうや~?」

声の主は就任32年目を迎えた竹田寛行監督(60)だ。普段はグラウンド脇から取材をするが、今回はスタッフの温情で輪の中に入れてもらった。緊張しながらあいさつを済ませると、プロコーチの二ノ丸友幸氏(40)に進行が委ねられた。

冒頭は頭の体操。大手コンビニチェーンのロゴマークを、その場で書くように命じられた。町でいつも見ているはずだが書けない。

スライドが変わった。

「“知っている”ようで“知らないこと”が多い。“分かっている”が“出来ていない”が多い」

2日前に行われたミーティングの復習だったよう。

「前回の話を経て、何か取り組み始めたことは? 3人1組で話しましょう」

突然、画面が切り替わり、78人から、3人ずつの小グループに分かれた。3分に設定されたタイマーも稼働。私と同じグループになった部員の話はこんな具合だった。

「お風呂を洗ったり、食器を洗ったり…。親の負担が減るように、より手伝いをするようになりました」

3分後、再び全体の画面。二ノ丸コーチから指名された部員が、その場で発表していった。時間を制限する理由はこう説明された。

「試合でずっとしゃべれるわけちゃうよな? 限られた時間をコントロールして、意見を交換する。合っているか、間違っているかじゃない。1年生、大事なのは意見を言うことだよ!」

小グループを何度か作りながら、徐々に本題に進んだ。こちらも取材者というより、参加者の1人として、メモの手が止まらない。

画面に「自主的」「主体的」という言葉が並んだ。全員が手元のノートに書き込んだのが、この文章だ。

「『主体的』とは、与えられたテーマに加え、考え、判断し、行動する」

試合中、ほとんどの場面で監督、コーチの指示が届かないラグビー。主体的な姿勢は競技だけでなく、その後の人生で求められる。二ノ丸コーチは1年生にも理解できるように伝えた。

「御所では与えられたテーマに取り組む『自主的』は当たり前。でも課題が10個あったとして、周りは2~3個しか言ってくれない。残り7~8個は自分で探さないといけない。主体的に行動できる“自考動型選手”は将来につながるね」

約1時間のミーティングが終わった。部員が退出した後、竹田監督は言った。

「コロナで指をくわえて、じっとするんじゃなくて頭を使う。できることをやる。僕は字を書いて、相手に伝わる『言葉』を探す日々です。自分も勉強して、今の流れ、生徒のニーズに合わせる必要がある。3年生は進学や就職に向けて面接がありますが、そこで必要なのも『言葉』です。普段の春は1年生はガイダンス、3年生はリーダー性を育む時期。今年は全員でゼロからスタートしています」

登校再開は6月の見込み。限られた環境でも自ら考え、言葉で思いを共有することはできる。うまくいかない部分を、他の責任にしがちな昨今。「主体的」という3文字が心に響いた。

◆御所実ラグビー部 1948年(昭23)創部。2007年(平19)に御所工と御所東が統合され、現校名。全国高校大会(大阪・花園ラグビー場)には12回出場し、準優勝4回。新チームは2月の近畿大会で8強。主なOBは元日本代表主将の菊谷崇氏。