スポーツには力がある。そして、同じように本にも確かなパワーがある。新型コロナウイルス感染拡大で、社会や私たちを取り巻く状況、暮らしも大きく変わった。そんな新たな日常の中でも、アスリートや指導者は必死で戦いを続けている。

日刊スポーツでは、感受性も豊かなトップアスリートや指導者に「私の相棒書」と題し、ステイホームの自粛期間やこれまでの人生で触れて、力をもらってきた1冊を取材。5人の「相棒」紹介します。

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空手女子 清水希容(26=ミキハウス)

『やる気のスイッチ!』(山崎拓巳著、サンクチュアリ出版)

高校2年の夏、優勝を狙っていた全日本高校総体(インターハイ)で3位に敗れた。精神的な弱さを感じていた時、ある起業家の書いた自己啓発本を、書店でたまたま手に取ったことが転機となった。さわやかなルックスとは裏腹に「私って結構、ネガティブな部分が多いんです」と笑う清水だが、その本に書かれていた内容を実践し、「なぜできないのだろうではなく、どうやればできるんだろうと、前向きに考えられるようになった」。

『やる気のスイッチ』というタイトルそのままに、その1冊は若い空手家のモチベーションを大きく向上させた。練習がうまくいかない時も、「思い詰めてしまうのではなく、これは自分のためになる修行だと考えることが大切。そんなふうに実践し、日々の稽古に取り組みました」。精神的な余裕が生まれ、練習の質も向上。翌年のインターハイでは見事優勝した。

大学に進み、社会人になった後も、掛け替えのない1冊として手元に置いてきた。「ちょっとした時間があれば一気に読み切れる。1年に1回ぐらいは読み返しています」。東京オリンピック(五輪)の延期が決まった時も、稽古に打ち込める時間が増えたと前向きに捉えた。「そう思えるようになったのは、この本のおかげ。プラス思考が身についた」。1年後を見据え、金メダル候補は再び心のスイッチを入れ直す。

◆清水希容(しみず・きよう)1993年(平5)12月7日、大阪・阪南市生まれ。9歳で空手を始め、東大阪大敬愛3年時に女子形で全国高校総体優勝。関大をへて16年にミキハウス入社。14、16年と世界選手権で2連覇を果たした。全日本選手権は7連覇中。東京五輪の金メダル候補。160センチ、56キロ。