新型コロナウイルス感染拡大後、東京オリンピック(五輪)競技の屋内・対人種目では初の全日本級として開催されている大会の決勝が行われた。17~19日に行われた予選を勝ち抜いた男女6種目の計12人が日本一を争った。

最終の第6試合は男子エペが行われた。昨年限りで引退していたことが話題になった坂本圭右(36=自衛隊)と、日本代表の主力である189センチの宇山賢(28=三菱電機)が対戦。出場選手で最年長の坂本が15-13で競り勝って6年ぶり4度目の優勝を果たした。

スマートフォン向けゲーム「ドラゴンクエストウォーク」がゲームスポンサーとして参画。コラボレーションでドラクエの音楽が流れる中、選手紹介され、インターバルでは宇山がドラクエのノートに記した反省点を見返すなどの演出が盛り込まれた。

その中で36歳のベテランが接戦を制し「勇者」となった。昨秋に引退し、自衛隊の近代五種班コーチに転身しているはずが…本当なのか、衰え知らずの試合を展開。一進一退の攻防で12-12となった後、15-13で振り切って頂点まで駆け上がった。

試合後は、すぐにマスクを外して肩で大きく息をした。ピスト(競技コート)を離れると、あおむけにぶっ倒れ、優勝インタビューでも息を切らしながらコメントした。

対応は相変わらず、つかめない。「本当に引退していたのか?」と質問されると「この1試合だけなら…ということで。もう動けません」。19日の予選突破後の準備について聞かれると「ゴルフ行って、1時間くらいフェンシングして。決勝までの練習は1時間未満」と断言してしまった。真偽はともかく、やり切ったようだ。「決勝進出が決まった時から最後の試合なので、悔いが残らないようにしよう、勝ちたいな、と思っていたのでガンガン攻めた。やっと(競技生活から)解放されました」と大量の汗を流しながら言った。

敗れた宇山は「1セット目に攻め切られて、3連続くらいでポイントを取られてしまった。2セット目はもっと後ろで対応しようとしたら、また取られた。最後は意地で押し切られた」と感服した。

最後に、再び坂本にマイクが向いた。全日本は優勝4回、準優勝2回。36歳にして再び日本一に返り咲いた。「引退撤回しないのか?」。そう問われると「これ以上の舞台はないので。きれいにやめます。五輪に出る夢は果たせなかったけれど、ここにいる宇山とか(自衛隊の後輩の山田)優とか(元世界ランク1位の)見延(和靖)に託したい」と美しくまとめ、おそらく本当に、現役生活にピリオドを打った。【木下淳】