男子シングルス世界ランキング1位の桃田賢斗(26=NTT東日本)が3連覇を達成した。1月に遠征先のマレーシアで巻き込まれた交通事故による大けがから、鮮やかに蘇った。

女子シングルスの奥原希望(25=太陽ホールディングス)は山口茜(23=再春館製薬所)との熱戦を制して2連覇。女子ダブルスは福島由紀(27)広田彩花組(26=丸杉Bluvic)が優勝した。渡辺勇大(23=日本ユニシス)は2年連続で男子と混合のダブルス2冠を獲得した。

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一進一退で迎えたファイナルゲーム終盤、桃田は一気にギアを上げた。懸命に粘ろうとする常山幹太(トナミ運輸)に対し、威力十分のスマッシュや、強打からのプッシュで地力の違いを誇示すると、最後は長いラリーから鮮やかなクロスで決着。第1ゲームを先取される展開からの逆転で大会3連覇を遂げ、「ほっとしているが、満足はしていない。もっと上を目指して頑張っていきたい」。

遠征先のマレーシアで巻き込まれた交通事故による大けがを乗り越え、11カ月ぶりにコートに戻ってきた今大会。体調そのものは100%に戻してきたつもりでも、試合勘を取り戻すのは容易ではなかった。ショットの精度に自信が持てず、「1球1球がすごく不安だった」。不安を抱くがゆえ慎重になりすぎる場面も目立ったが、土壇場で迷いを振り切るかのように、力強く腕を振り続けた。「最後は出し切った状態。引き出しには何もなかったが踏ん張れた」。350日ぶりの優勝に笑顔がはじけた。 この1年を「どん底からのスタートだった」と振り返る。そこからはい上がってこられたのは、仲間がいたからこそ。その1人が個人トレーナーの森本哲史さん(42)で、桃田は「2人でいろんな経験をしてきた。練習できなかった状態からケアをし、支えてくれた。家族より長い時間を過ごしてきた。存在は大きい」。全幅の信頼を寄せている。

その森本トレーナーも、交通事故にあった車に同乗し、3カ所を骨折するなどの大けがを負った。桃田を励ましつつ、自らのリハビリにも励む日々を「1人の事故ならかなりネガティブになったかもしれない。でも彼(桃田)が恐ろしくポジティブなので、自分も前向きになれた」と振り返る。

優勝後の会見で桃田は、愛読する人気マンガ「鬼滅の刃」を引き合いにこう言った。「今日のレベルでは、まだまだ“柱”にはなれない感じ。でもベンチを見て『この人たちがついているから絶対勝てる』と思うことができた。“感謝の呼吸”は出せたかな」。冗談めかした言葉の先には、森本トレーナーへの「ありがとう」の気持ちが込められていた。【奥岡幹浩】