13歳の少女が根室から東京オリンピック(五輪)を目指す。太田捺(根室光洋中1年、根室スイミングク)は、昨年の近代五種全日本選手権で好成績を残し、国際大会に派遣される男女各4人の日本代表に初選出された。3月からのワールドカップ(W杯)を転戦。ポイント争いで上位に食い込むことは難しいが、6月末の世界選手権で3位以内に入れば、夏季五輪最年少出場の可能性は残されている。

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若き新星・太田捺が、日本人の夏季五輪史上最年少出場記録に挑む。3月のW杯ハンガリー大会から参戦。五輪出場権に直結する国際大会でのポイント争いは、すでに昨年6月から始まっているため状況は厳しいが、1年延期されたことによってかすかに開かれた扉。6月末の世界選手権(ベラルーシ・ミンスク)で3位以内に入れば、大逆転で出場権を獲得する可能性が残されている。「中学生でオリンピックに出ることで、この競技のことを広く知ってもらいたい」と意気込んだ。

5歳から水泳を始め、指導を受ける菅原美香コーチ(42)の勧めで、小4時にまず近代三種(水泳、ランニング、射撃)に挑戦。「普段は手にできない道具を使えて楽しかった」。翌年にはドイツの国際大会で、いきなり年代別2位の好成績。近代五種に幅を広げ臨んだ小6時のポーランドオープン国際大会でも、18歳以下の部で年上の欧州選手を相手に3位に入った。昨年11月の全日本選手権では、馬術以外の4種目合計で最上位となり(既に代表に決まっている自衛隊の島津玲奈を除く)、念願の日本代表に選出された。

太田の成長には周囲のサポートが欠かせない。14年に釧路で行われた近代三種の大会に出場した菅原コーチが、レーザー射撃の道具をそろえた。18年には札幌在住の北海道フェンシング協会・下野謹也理事長(89)の元を訪れ、基本的な技術指導や道具の購入を手伝ってもらった。馬術の練習は、菅原コーチの父勝征さん(76)が運営する根室乗馬クラブを利用。すべて根室で練習できる体制が整った。

馬術場を走りながらのレーザー射撃、さらにフェンシングは、菅原コーチ宅の近所にある倉庫を借り、姉楓と3人で練習する。太田は「練習はつらいけど、結果が出るとうれしい。他ではなかなかできない経験をさせてもらっている。結果を出して恩返しがしたい」。菅原コーチは「根室から挑戦することに価値がある」という。日本では目にする機会の少ない競技だが、道東根室から五輪への情熱を、ひたむきに発信し続ける。【永野高輔】

◆五輪最年少出場 冬季夏季通じての最年少は、36年ガルミッシュパルテンキルヘン冬季大会フィギュアスケートの稲田悦子で12歳0カ月。夏季大会では92年競泳女子の稲田法子。岩崎恭子、春名美佳との中2トリオで最も誕生日が遅く、開幕2日後に14歳になった。東京大会で太田が出場すると13歳10カ月での出場となる。スケートボードで出場の可能性がある倶知安町出身の開心那(ここな、12)は、12歳10カ月での最年少出場の可能性がある。

◆近代五種 水泳、フェンシング、馬術、レーザーラン(射撃+ランニング)を1人で行う競技。レーザーランは射撃と800メートル走を交互に4回行う。五輪では1912年ストックホルム大会から採用。東京五輪には男女各36人が出場し、各国・地域の出場枠は男女とも最大2人。6月の世界選手権の結果、同選手権後に発表されるランキングなどで各国へ出場枠が配分される。現状は19年アジア・オセアニア選手権で上位に入った男子の岩元勝平(自衛隊)と女子の高宮(旧姓朝長)なつ美(警視庁)が既に出場資格を持っているが、今後の国際大会の成績によって最終的に代表が決定する。

◆太田捺(おおた・なつ)2007年(平19)9月12日、根室市生まれ。5歳から水泳を始める。小4で近代三種を始め、17、18年近代三種日本選手権小学生の部1位。19年には姉の楓(15)とともにユース世界選手権(ブルガリア・ソフィア)近代五種16歳以下の女子リレーに出場し、日本人初優勝。得意種目はレーザーラン。家族は両親と姉、弟、妹。好きな芸能人は千鳥。156センチ、45キロ。血液型O。

<姉楓 姉妹でパリ>

根室でともに練習を続ける姉の楓(15=根室光洋中3年)は、太田の力を引き出す大事な競争相手だ。楓も近代五種の実力者で、19年には妹とともにユース世界選手権16歳以下女子リレーで優勝。昨年の全日本選手権でも3位に入っている。妹の代表入りに「同じ練習をしていて代表入りしたのは、私もうれしいし刺激になる。次のパリ五輪は姉妹で出られるように頑張りたい」と話した。