愛知の山本草太(21)が43・38点を記録し、よもやの18位発進となった。

取材エリアに姿を見せた山本の表情は険しかった。

「練習不足だったり、自分の気持ちの不安がすごく大きくて、試合する前もネガティブな気持ちで。体も気持ちもなかなかうまく動かなかったので、これだけ試合中に『途中でやめたい』と思ったのは初めてで…。途中からあきらめじゃないですけれど『こんな力だろうな』っていうのは、感じながら滑っていました」

地元開催の国体で、SPは最終滑走。冒頭は4回転ジャンプに挑戦する予定だったが「自分から瞬時に構成を下げた。なかなかない」と3回転フリップを選択。だが、空中で回転はほどけて2回転となり、得点は認められなかった。続くトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も1回転半となり、ジャンプ2つで0点。最後のジャンプとなった3回転ルッツでも転倒し、スピンも3つのうち2つで得点が認められなかった。

「たぶん(昨年11月の)NHK杯ぐらいから周りとの差を少しずつ感じ始めて、全日本(選手権、同12月)まではポジティブな気持ちを持っていたんですけれど、(全日本が)終わってしまったことで正直になって。地に足をつけて『こういったレベルまで落ちたんだな』と感じて…。今日も『頑張ろう』という気持ちが出なくて。『アスリートとしてやっていけるのかな』というのを、正直なところ感じています」

15-16年シーズンには全日本ジュニア選手権、ユース五輪で優勝。度重なる骨折などに苦しみながらも、過酷なリハビリを経て、リンクに戻ってきた。グランプリ(GP)シリーズのNHK杯などで、世界のトップ選手相手に戦ってきた山本だが、現在は難しい心理状態にあるという。

29日にはフリーが行われるが「『頑張らないといけない』というのは、アスリートとして当たり前。ただ、すぐにその気持ちにはなれなくて…」と正直に明かす。それでも胸中には、対照的な1つの思いがある。

今大会、愛知代表としてコンビを組むのは日野龍樹(25)。中京大の先輩は、今季限りでの現役引退を表明している。山本は言う。

「僕が中学1年生の頃に(関西から)名古屋に拠点を移したときから、先輩として関わってくださって。僕がケガをして、大変な時期にも、ごはんにも誘っていただいて、本当にお世話になった先輩。先輩との試合は最後になるかもしれないので、そこはしっかりと感じながら。明日のフリーを楽しんで、足を引っ張らないように、諦めずにできたらなと思います」

自らに言い聞かせるように、フリーの4分間を見据えた。【松本航】