18日に開幕する関西大学ラグビーには、近年の関西勢躍進に欠かせないパートナーがいる。広島・呉市に本社を構える総合食品物流の「ムロオ」は今季、関西協会と6季目となるリーグ命名権の契約を更新した。

リーグの正式名称は「2021 ムロオ関西大学ラグビーAリーグ」。昨季は天理大が関西勢36大会ぶりの大学日本一を飾り、その背中を同志社大、京都産業大などが追う。連載最終回は関西勢のレベルアップを喜ぶムロオの山下俊夫会長(73)に、支援を続ける理由を聞いた。【取材・構成=松本航】

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今からちょうど50年前になる。生まれ故郷の広島で運送業を始めた頃、従業員わずか7~8人ほどだった。今や資本金4億3000万円、社員数は6200人超え。1月、創業者である山下会長は天理大の大学日本一を心の底から喜んだ。

「『関東に負けちゃいかん』という思いは、やっぱり関西人、みんな持っていると思うんです。天理の優勝を見て、本当に、本当に、うれしかったんですよ」

大学ラグビー界初の「命名権」は2016年に生まれた。山下会長は当時関西ラグビー協会で会長を務めていた、元日本代表の坂田好弘氏(78)から連絡を受けた。

「坂田さんは近鉄時代の先輩にあたります。『関西のラグビーを強くしたい』と言われ、私も今は広島ですが、関西で育った人間。『やれることがあれば』という思いで受けたんです」

広島で生まれ、関西の地で育った。ラグビーとは大阪・茨木工高で出会った。

「高校でも野球をしようと思っていたんですが、野球部がなかった。そうしたらラグビー部の顧問が田中忠士先生という、天理大出身の方でした。それで無理やり入れさせられて…。そりゃあ時代も違いますから、練習は厳しかったです。天理大出身の先生のネットワークがあって、よく強いチームと練習試合をしましたね」

淀川工、四條畷、興国、大工大高(現常翔学園)…。啓光学園(現常翔啓光学園)も力をつけ始めた頃で、群雄割拠の時代だった。

「田中先生は選手としてもすごくて、近鉄に誘われた経験があったと聞いたことがあります。それでも教員を選んだ。その縁もあってか、高校を卒業し、私が近鉄に入ったんです」

1960年代後半、近鉄は全国社会人大会決勝の常連だった。

「ちょうど私が入社する前の年に近鉄は全国優勝。黄金時代でした。高校ではフランカーでしたが、近鉄に入ってからはプロップになり、でっかい人とスクラムを組まされた。とにかくしんどかったです。でも、それなりにやれるようになって、3~4年目には試合に出られました」

当時、不動のエースとして君臨したのが坂田氏だった。山下会長が定位置奪取を目指していた1968年、坂田氏は日本代表ニュージーランド(NZ)遠征でオールブラックス・ジュニア相手に4トライ。現地で「空飛ぶウイング」と評され、その名が知れ渡った。

「坂田さんはそりゃあ、すごい選手でした。神様のような存在。でも、優しかったんです。怖い先輩もいっぱいおったんですが、坂田さんには怒られたことがなかった」

近鉄には5シーズン在籍し、実家のある広島に戻った。入社前から物流業に携わる意思を持っていた。生カキなどの冷凍輸送業務に取り組み、個人創業から11年で近畿に初進出。全国規模の会社へと育て上げた。

坂田氏からの要請を快諾し、2016年に1シーズン1000万円の3年契約で命名権を取得。関西協会は資金をNZとの積極的な交流などに役立てた。新型コロナウイルス感染拡大前の2019年春には、関西学生代表がNZ遠征を実施。そこでは当時天理大のCTBシオサイア・フィフィタ(近鉄)が活躍し、のちの大学日本一、日本代表入りへつなげていった。坂田氏が2020年春に会長退任後も支援を続けている。

「私は関西のラグビーに育てられました。うちの社員も、私がラグビーをやっていたことを知っています。『恩返し』という言葉のような、大した話ではありませんが、うちにもできることがあれば、続けていこうという気持ちです」

そこには関西を、ラグビーを、愛する思いが詰まっている。

◆今季の関西大学リーグ 開幕節第1日(18日)は同志社大-関大の1試合。翌19日に立命大-関西学院大、近大-天理大(ヤンマースタジアム長居)が予定され、京都産業大-摂南大はコロナ禍での部活動休止の影響で10月24日に延期。第2節までは無観客。今季から勝ち点制を採用し勝ち4点、引き分け2点、負け0点。ボーナス点として7点差以内の負け、勝敗に関係なく4トライ以上で1点を追加。上位3チームが全国大学選手権に進む。