フィギュアスケート世界選手権(フランス・モンペリエ)が、日本最高成績で幕を閉じた。男子の宇野昌磨(24=トヨタ自動車)と女子の坂本花織(21=シスメックス)が8年ぶり3度目のアベック金メダル。鍵山優真(18=オリエンタルバイオ/星槎)は2年連続で男子2位、三浦璃来(20)木原龍一(29)組(木下グループ)はペア初の準優勝。金2銀2は史上初となった。10年バンクーバーオリンピック(五輪)男子代表の小塚崇彦氏(33)が今大会を総括する。

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宇野選手は素晴らしい演技でした。質の高い練習を積めていると聞いていたので、その通り、自信を持って滑っていた印象。2月の北京五輪でも、団体から個人とショートプログラム(SP)の点数を上げ、フリー「ボレロ」も我慢して滑り切った経験があります。スピンとステップをレベル4(最高評価)でそろえたのも気持ちに余裕があった証拠。自己ベストを更新する世界歴代3位の312・48点には、技術、経験、宇野選手が今できることが全て詰め込まれていました。

宇野選手が「最高難度」と称す「ボレロ」は、シーズン当初から「いいプログラムだな」と思っていました。ミスがあったとしても短く感じる内容で、流れを止めない技術が盛り込まれていて、一般の方々が見てもスケート経験者が見ても楽しめる「両面対応」の名プログラムでした。そこに4回転ジャンプ4種5本。休む場所がなく体力的な難しさがあるからこそ、滑り込まれてきたことが際立ちました。

山一ハガネさんと私が共同開発した「小塚ブレード」のカーブを数十回にわたって調整した「宇野選手仕様」。新たな技術も取り入れたことも成長につながったのであれば、うれしいです。今大会、りくりゅう(三浦、木原組)も友野一希選手も使ってくれて、自分も一緒に戦っているような気持ちでした。

鍵山選手は相変わらず高い技術を見せてくれましたが、実は演技前に目がキョロキョロしていたように見えました。集中すると眼球は動かないので少し気になりましたが、若さが出たのかなと。勢いを持って北京五輪の銀メダルなど成績を残してきた一方、まだシニア2年目です。3回転半のミスや4回転ループのダウングレード判定など、ジャンプ1本の失敗で10点超を失う時代。その中で追いかけられる難しさも知った今後の成長が期待されます。

坂本選手は3回転半や4回転がなくとも技術点80点オーバー。スピードから来る迫力、経験の積み重ねを、萎縮せず出し切ってくれました。世界で彼女にしかできない演技です。北京の金銀メダリストにワリエワ選手らロシア勢が除外された大会ですが、世界一は世界一。「誰々不在」と物議を醸されること自体、おかしなこと。しっかり準備して世界選手権に出て、しっかり演技して勝った選手が紛れもない王者です。では、何かしら他の理由で出場できなかった選手は、どう判断するのかという話にもなってきます。外野の声は気にしなくていいと個人的には思っています。

男女アベックVも快挙です。過去に達成された2度(10年の高橋大輔、浅田真央と14年の羽生結弦、浅田)とも、自分も出場して同じ現場にいました。今回も含めて全て五輪後ですが、全力を尽くした後、また照準を合わせ、頂点を取りにいく強い意志がないと、この舞台では戦えない。出て勝った選手が世界一です。

来季の世界選手権は、さいたまスーパーアリーナで行われます。今回、男女だけでなくペア、アイスダンスも結果を出した日本。史上初の金2銀2というメダル獲得で、最高の形で日本開催を迎えられます。(10年バンクーバー五輪代表、11年世界選手権銀メダル)