新たな歴史を刻んだ。男子100メートルバタフライの日本記録保持者、水沼尚輝(25=新潟医療福祉大職)が50秒94で銀メダルを獲得。この種目では、五輪と世界選手権を通じて日本男子初の表彰台となった。クリシュトフ・ミラク(ハンガリー)が50秒14で200メートルとの2冠を達成した。アーティスティックスイミングでは日本がチーム・フリールーティン(FR)で銅メダル。混合デュエットはFR決勝で姉の佐藤友花と弟の陽太郎(ともにジョイフルアスレティックク)が組んだペアが銀メダルに輝いた。ASで日本のメダルは最多の7個目となった。

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水沼の真価は後半に表れた。8人中最後尾で折り返すと、後半に怒濤(どとう)の追い上げで一気に浮上。ゴール直前で横並びの2位争いを制した。息を弾ませながら電光掲示板を確認。右手を強く握りしめ、親指を立てて喜んだ。「しっかりメークヒストリーすることができた。感慨深い」と男泣きした。

世界の壁が厚いこの種目で、日本選手の決勝進出は世界選手権で5大会ぶりだった。23日の準決勝では、自身の日本記録を0秒05更新する50秒81をマーク。大会前には「世界の舞台で50秒台を出すことがやるべきこと」と誓っていた。その言葉を実現させ、決勝ではこの種目では日本男子初となるメダルをつかんだ。

東京五輪で準決勝敗退後は、後半を26秒台で泳ぐことに取り組んできた。ポイントとしたのはターン後の15メートル。海外勢を参考にドルフィンキックを打つタイミングを早め、回数を2、3回増やしたことでタイムが伸びた。今大会準決勝の後半50メートルは26秒62、決勝でも26秒94。2本とも26秒台は水沼と優勝したミラクだけだった。練習の成果が快挙達成に直結した。

栃木・作新学院出身。高校時代は目立った成績を残せず、首都圏の有力大学からは勧誘の声がかからなかった。しかし、30センチという足の大きさに魅力を感じた同郷で新潟医療福祉大の下山好充監督に誘われ、競技を続行した。卒業後も同大職員として二人三脚で歩んできた。「次に狙うのは、もう1個上(金メダル)しかない」。雑草魂を原動力に、大舞台で才能を開花させた。

◆男子100メートルバタフライ 現在の世界記録保持者はケーレブ・ドレセル(米国)で、昨夏の東京五輪で49秒45をマーク。高いフィジカル能力が求められるため、日本勢は長らく苦戦を強いられてきた。今大会で水沼が銀メダルを手にするまで、男子は五輪、世界選手権を通じて表彰台に立ったことがなかった。女子では72年ミュンヘン五輪で青木まゆみが金メダルを獲得している。

◆水沼尚輝アラカルト

◆生まれ 1996年(平8)12月13日、栃木県生まれ。

◆祖父の池 幼少期は祖父の家の池で泳ぐコイをじっと見て、一緒に泳いだ。水泳は小1から始めた。

◆経歴 栃木・作新学院-新潟医療福祉大。現在は同大職員。2歳上の萩野公介氏は高校の先輩。

◆ビッグサイズ 足のサイズは30センチで大きな推進力を生む。気に入ったデザインのシューズはサイズがなく「何でこんなに大きいんだ」と落ち込むことも。

◆尊敬 12年ロンドン五輪200メートル金メダルのチャド・ルクロス(南アフリカ)をリスペクト。同氏をまねて優勝時はゴーグルを首から下げる。

◆代表歴 19年日本選手権男子100メートルバタフライ優勝で日本代表に初選出。同年世界選手権、21年東京五輪代表

◆日本記録 今年3月の国際大会日本代表選考会で50秒86をマークし13年ぶりの日本新。今大会準決勝では50秒81と更新。

◆身長体重 180センチ、83キロ。