日本フェンシング界初のプロ選手、江村美咲(23=立飛ホールディングス)が世界女王になった。

日本の女子個人では史上初、サーブル種目としても男女を通じて初の金メダルを獲得した。

世界ランキング3位で大会を迎え、決勝では同1位のアンナ・バシュタ(26=アゼルバイジャン)に挑んだ。

序盤は一進一退。一時は4-6と2点リードを許したが、逆転した。第1ピリオド(P)を8-7で折り返すと、インターバルを挟んで第2Pまでに6連続ポイント。12-7から着実に得点を重ね、最後は14-10から最後の1点を奪った。

マスクを外すと、感極まっていた。

「世界選手権は2014年に初めて出場してから何度も決勝戦を眺めていたので、まさかそこに自分が立って優勝する時が来るなんて思いもしなかったです。本当にうれしいです」

日本女子にとって、サーブル陣にとって、悲願の世界選手権制覇だった。全種目では15年の男子フルーレ太田雄貴以来2人目の世界一となった。

「初戦からかなり緊張していましたが、試合数を重ねるごとに身体も気持ちもほぐれてきて、後半は相手の特徴に合わせて冷静に戦術を作れたのが良かったと思います」

ドイツ選手を破った準々決勝突破の時点で、初のメダルが確定。それだけ日本人が勝てない種目でもあった。中学入学前にサーブルから転向し、英才教育を受けてきた江村が期待に応えた。準決勝ではナバロ(スペイン)を15-5で圧倒。銀メダル以上を確定させた後、決勝で最高の色にしてみせた。

日本史上最強の女性剣士だ。5月のワールドカップ(W杯)で種目初となる優勝を果たすと、続くグランプリ(GP)イタリア大会でも銅メダル。世界ランクも日本歴代最高の3位に浮上していた。

昨年4月からは日本初のプロフェンサーとして活動する。同7月の東京オリンピック(五輪)では個人戦3回戦敗退だったが、燃え尽き症候群を乗り越え、今季に入って次々と新記録を樹立してきた。フランス人のジェローム新コーチとの相性も抜群で、従来の突進力に柔軟性も兼ね備えた江村は、世界でも無双状態になりつつある。

転戦から帰国した5月の会見では「今年の目標だった国際大会の金メダルと世界ランキング3位以内を、もう達成してしまって…」と笑った。想像以上の飛躍に自身でも驚きつつ「日本女子初の五輪メダリストへ前進したい」。24年パリ五輪へ意欲を見せていた。

父で08年北京五輪の日本代表監督を務めた宏二さんも「フルーレがお家芸の日本で、サーブルの世界ランク3位は夢のような話」と驚いていたが、さらに上の喜びが待っていた。

「またひとつ夢もかなって、オリンピック金メダルに近づけたと思います。これまでサポートしてくれた全ての方に感謝を伝えたいです。これからもチャレンジャー精神で努力して、選手として、人として応援したいと思ってもらえるような自分でありたい」

パリ2年前の快挙。国際フェンシング連盟(FIE)最高峰大会で歴史的な制覇を遂げ、夢へ自信を培った。心機一転、髪も金色に染めていた23歳の新女王。表彰式ではメダルも笑顔も最高に輝いた。【木下淳】

江村美咲(えむら・みさき)

◆生まれ 1998年(平10)11月20日、大分市出身。

◆両親 父宏二さんは88年ソウル五輪のフルーレ代表。08年北京五輪では日本代表監督を務め、太田氏の銀メダル獲得を支えた。母孝枝さんはエペで世界選手権に出場した経験がある。

◆経歴 小学3年で競技を始める。6年の時、大会の景品欲しさにフルーレからサーブルへ転向。高校から上京し、JOCエリートアカデミーで鍛えられた。

◆成績 14年南京ユース五輪の大陸別混合団体で金メダル。16年リオ五輪はバックアップ選手。18年から全日本選手権2連覇。W杯は18年米国大会の銀など個人、団体でメダル5個(金1銀3銅1)。6月のアジア選手権は個人、団体とも銀。東京五輪は団体5位。

◆日本初プロ 中大卒業後、従来の企業所属選手とはならない形で支援を集めた。立飛ホールディングスを筆頭に複数社と契約。スポンサー費から強化費を出し、競技に専念している。

◆特技 料理。コロナ禍の自粛中にスポーツフードスペシャリスト資格取得。

◆サイズ 170センチ、60キロ。右利き。血液型はA。