天理大柔道部の暴行問題で、世界選手権男子73キロ級金メダル大野将平(21)も下級生に暴行していたことが11日、明らかになった。同日、天理大が会見で明かした。5月28日に同部主将(当時)だった大野を含む4年生5人と2年生5人、1年生2人が1年生部員数人に対して平手打ちや足蹴を行った。大野は1年生部員に対して2回平手打ちの暴力を振るっており、9月10日から30日間の停学処分となった。問題発覚時、大野は「分からないので監督に聞いてください」と話していた。

 大野も手を出していた。先日判明した5月中旬の現場には「居合わせた」だけだった。しかし同月28日、上級生が1年生部員を全員寮に呼び出して「指導」が行われ、大野は1年生1人に対して2回の平手打ちを行った。昼間の練習後だった。さらに大野ら4年生5人は1年生に対し、1回から数回の平手打ちを行った。中には足蹴もあった。4年生から指示を受けた2年生5人、上級生から指示された1年生2人も平手打ちを行った。

 大野は「今回の件につきまして全柔連が暴力行為を排除していく中で、自分がたたいたということは誠に申し訳なく、心から反省しています。これからは成人した社会人となるように出直してやっていきたいと思います」と学校を通じて謝罪のコメントを出した。

 今月4日の会見で山田常則副学長は「彼(大野)が手を出したわけではない」と述べていた。しかし暴行現場にいながら止めることができなかったことを問題視され、5日に主将を解任された。世界選手権から帰国した4日、暴力への関与について「分からないので監督に聞いてください」と話していた。今回さらに30日間の停学処分が加わった。副学長は「前回こういう事実をつかんでいなかった。あらためて出た暴力行為については誠に残念に思っている」と述べた。

 新たな暴行の発覚は今月5日の全柔連の再報告書提出依頼から始まった。副学長によると「柔道部として新しく出直すために全ての柔道部員に聞き取りを行った」という。6日から9日まで学生部職員や学生委員会が柔道部員93人中89人に直接会って聞き取り調査。大野主将体制になった昨年11月からの状況を調べる中で今回の暴行が浮上した。

 副学長は暴行の理由について「練習中に気を抜くとケガをする恐れがある。どうしても1年生の何人かが上級生から見てだらしがなく、危ないからということがあった。気合を入れてやらなければということで、指導の中で手が出てしまったと聞いている」と説明。「(新たな事案は)これ以上ない」と断言した。一方で5月から7月までに4件の暴行行為が発覚したことで「常態化はない」と言い切れる根拠を回答できず沈黙するなど、1時間の会見では歯切れの悪い説明を繰り返す場面もあった。

 全柔連は5日に大野を強化選手から外すことを示唆していた。大野が暴行に加わっていた事実が明らかになったことで、状況は進んでいく可能性がある。五輪3連覇の野村忠宏(ミキハウス)らを輩出した名門の再生はますます厳しい状況に立たされた。

 ◆大野将平(おおの・しょうへい)1992年(平4)2月3日、山口県生まれ。東京・弦巻中-世田谷学園高と柔道の私塾「講道学舎」で腕を磨き、天理大に進学。73キロ級で、11年世界ジュニア、12年12月のGS東京で優勝。今年8月の世界選手権では金メダルを獲得。得意技は大外刈り、内股。世界ランク15位。家族は両親と兄。170センチ。

 ◆天理大柔道部

 1925年(大14)創部。団体で争う全日本学生優勝大会を11度、制した。前部長は70年代に世界選手権4連覇を成し遂げた全日本柔道連盟の藤猪省太前理事。男子60キロ級で五輪3連覇の野村忠宏(ミキハウス)や、ロンドン五輪の男子代表監督を務めた篠原信一氏らを輩出した。元世界王者の穴井隆将氏が4月に副監督に就任。