ラグビー日本代表ロックのトンプソン・ルーク(38=近鉄)が13日、W杯1次リーグ最終戦スコットランド戦(横浜・日産スタジアム)で先発する。

W杯通算13試合目の出場へ、12日は都内で最終調整。同戦では12試合で小野沢宏時と並んでいた、日本代表最多記録を更新する。大会前には今季限りの現役引退を宣言。38歳にして第一線で戦える理由を、近鉄の関係者の証言から検証する。【取材・構成=松本航、南谷竜則】

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台風接近による大雨にも心は乱れず、トンプソンは普段通りの姿勢で決戦に備えた。代表最多となるW杯13試合目の出場へ「絶好調です」と自信満々。今大会出場2試合でタックル成功率96%の自称「おじいちゃん」は「育ってきた環境が牧場、農業。コンディショニング、勤勉さ、ハードワークに生かされていると思う」とルーツをたどった。

ジャージーを汚しながら、何度も起き上がり、体を張る。38歳にして、なぜそこまで動けるのか-。所属する近鉄でトレーニングを担当する岡誠ヘッドS&Cコーチ(41)は「家も農業。生き物相手なので『今日はやりたくないからやらない』とはいかない。日常生活の中で培われたと思う。生活習慣の中で体を鍛える環境。今の日本にはない」と分析する。トンプソンは故郷ニュージーランドに140ヘクタールの牧場を持ち、800ヘクタールの土地で羊や牛を育てていた祖父の背中を追う。

年齢を重ね、練習では他種目を取り入れた。ボクシング、バイク、レスリング…。距離が走れなくなった分、高い強度を保つ工夫だ。妥協しない性格があり、岡コーチは「逆にこっちが重りを下げるアドバイスをするぐらい」と苦笑する。

体の特徴は下半身に見える。飯田力チーフメディカルトレーナー(45)は「外国人選手と比べても、股関節周りから太ももの筋肉がすごい」とうなずく。地面を踏み込んだ力を上半身に伝えるには、関節の強さが求められる。足首の痛みとは約20年前から付き合い、08、15年には関節のクリーニング手術を受けた。以前は2週間に1回程度だったメンテナンスが、最近3年は週2回に増加。極力痛み止めを飲まず、飯田トレーナーには「俺は痛くても練習してしまう。抜くべき時は『抜け』と言ってくれ」と伝えるほど真っすぐだ。

トンプソンを送り出した2人は「人にも厳しいけれど、自分に厳しい」と口をそろえた。背中で示す前段階には、自らの体を熟知し、最高の状態へと仕上げる繰り返しがある。38歳はスコットランドを思い浮かべ「素晴らしいチャレンジ。大きな試合」と言い切った。「絶好調」の体で、暴れまわる舞台がそこにある。

<トンプソン・ルークのアラカルト>

◆生まれ 1981年4月16日、ニュージーランド・クライストチャーチ

◆経歴 13歳で競技を始め、セントビーズ高、リンカーン大などを経て04年来日。三洋電機に在籍し、06年から近鉄

◆日本代表 07年4月の香港戦でデビュー。同年から日本代表初のW杯4大会連続出場(元木由記雄、松田努は4大会連続選出も、出場は3大会)。W杯最年長出場記録も樹立。スコットランド戦で外国出身選手初の代表70キャップに到達

◆牧場 引退後は牧場経営を志す。雑誌などで鹿、牛、羊に関する知識を蓄積。現在は中国や韓国で人気の鹿の漢方を作っている。サマーヒルという地名にちなみ「ナツヤマ(夏山)ファームは?」とニッコリ

◆家族 妻ネリッサさんと2女1男

◆サイズ 196センチ、110キロ

○…東大阪市の花園ラグビー場から徒歩1分の距離に、トンプソン行きつけの「お好み焼き春美」がある。店主の奥野春美さん(73)は野菜や漬物などを家に届けに行くほどの仲で「店に入ってくる時は『もうかってまっか~? ボチボチでんな~』まで全部言って入ってくるのよ」と大阪らしいエピソードを披露。近鉄の練習後、トンプソンはママチャリで店の前を通って帰宅する。奥野さんは「この辺の人に『こんにちは』って言うて、手を挙げてあいさつしてる。トンプソンを知らん人は東大阪にはおらんで~」と誇らしげだ。