<世界柔道連載:東京経由ロンドン行き>1

 柔道の世界選手権が52年ぶりに東京で開催される。2年後の12年ロンドン五輪への、重要な通過点となる今大会に向け、3回にわたって注目選手など見どころを連載する。第1回のテーマは新星。トルコ人の血を引く19歳のホープ、男子100キロ級の高木海帆(東海大)が、世界大会デビューを果たす。

 高木の特長は力感あふれる柔道、そして彫りの深い端正な顔立ちだ。日の丸の柔道着をまとっても、エキゾチックな雰囲気を漂わせる。実際に高木はトルコの血を引いている。

 高木

 (実の)父親(メティンさん)がトルコ人。カイハン(海帆)はトルコの神話で海の神様であることから名付けられました。

 トルコの血を受け継ぐことに、一時期は悩みも伴った。美しいビーチが広がるオーストラリアのゴールドコースト生まれ。兄弟の名前も妹茉鈴(まりん)さん、弟海舟(かいしゅう)さん。根っからの海好きと思われるが「海はあまり行かない。胸毛が濃いので(笑い)」。だが篠原監督も「毛ガニ固めをやればいい」とジョークを飛ばすなど、代表内でも愛すべきキャラクターは浸透している。

 名前は早くから柔道界に知られていた。名門の東海大相模高1年時に総体で優勝。1年生での快挙は山下泰裕以来、33年ぶりだった。東海大進学後も昨年の講道館杯3位でシニアデビュー。今年に入ってからW杯ウィーン大会で優勝し、選抜体重別選手権では昨年の全日本王者、穴井に敗れたが、準優勝した。

 ベンチプレスは145キロを誇り、大内刈りも切れ味鋭く、寝技も得意と総合力がある。それでも「自分は天才的に技が切れたりはしていない。コツコツと、人間性も派手ではない」と地に足をつけている。

 ただ五輪に対しては「コツコツと」というつもりはない。きっかけは08年の北京五輪。「その時は世界で戦おうという自覚もなく、一ファンとして見ていた。でもあの桂治先輩(鈴木)が負けたのを見て、自分はもっと精神レベルを上げないと4年後に五輪を狙えないと思った」。今大会の100キロ級は世界ランク1位の穴井が優勝の本命だが、壮行会では「優勝を目指す」と宣言した。高木が世界という大海原へ出航する。【広重竜太郎】