<大相撲夏場所>◇3日目◇8日◇東京・両国国技館

 大関稀勢の里(25=鳴戸)が、小結豊真将(31)を押し出して、3連勝を飾った。立ち合いが合わずに1度は突っかけられたが、熱くならずに取り切った。気持ちも体も、バランスを重視して好発進。6大関時代になったが、さらに成長した姿を見せ始めた。

 表情は、変わらなかった。立ち合いの呼吸が合わず、豊真将に突っかけられた。いきおい余って、両肩を軽く突かれた。取組後「前だったら多分、熱くなってる」と振り返った。これまでならムキになって、墓穴を掘りかねない場面。稀勢の里は過度な興奮を抑えることができた。

 仕切り直し。右で張り、左ではず押し。過去6勝5敗と合口が良くない実力者を、危なげなく押し出した。「前へ、前へという気持ちでね。相手も気合が入ってましたね」。気持ちの面で、均衡を保った。大関昇進前、気持ちが入り過ぎて、激しくまばたきする光景もなくなった。

 バランス重視の体作りも心掛けた。稽古場にある2枚の大きな鏡。土俵内の稽古以外では、鏡の前で鳴戸部屋の誰より多くの時間を費やす。仕切りの姿勢を繰り返し、スクワットをして、てっぽうを打つ。鏡の中の自分と向き合う時間を、大切にしてきた。

 稀勢の里は言う。「昔は鏡がなく、先代は影で自分の動きを確認したと言っていました。ボディービルダーと一緒で、体のバランスを一番見ています」。バーベルなどの器具が置かれたトレーニング室も鏡張り。研究熱心だった先代鳴戸親方(元横綱隆の里)が、意味を込めて設置した鏡と向き合い、体を作ってきた。

 食生活も、バランスを意識した。取り寄せた青汁を飲み始めて約2年。これまでと違い、番付発表後の飲酒を避けた。「暴飲暴食はしなくなりました」。数キロ体重が減ったことは、まわしの余り具合で実感した。動きにキレが出た。

 史上初めて6大関が並び立った夏場所。3つの白星を並べて、存在感が増してきた。「まあ、負けよりは勝ちの方がいいですよ」。序盤で2勝3敗とし、休場も頭をよぎった先場所の姿はもうない。東の支度部屋を出る時、鏡に立ち姿を映し、落ち着いた足取りで帰路に就いた。【佐々木一郎】