「車、乗っていきますか?」。ありがたい言葉に、ずうずうしくも甘えさせてもらった。6月3日、メットライフドームからの帰り道での話だ。阪神藤浪VS西武榎田。虎のドラフト1位対決を見届け、帰阪に入ろうとした18時過ぎ。キャリーバッグを引きタクシー乗り場に向かっていると、偶然にも帰路に就く榎田に出くわした。そして、ヘトヘト顔の記者を見かねたのか、優しい言葉をかけてくれた、というわけだ。

 某駅までの道中、榎田は何度も「晋太郎」という名前を口にした。「僕は人の心配をしている場合じゃないんですけど…。晋太郎は良かったですね。うちのバッターも『球、速っ!』って驚いていましたよ」。気遣った相手はもちろん虎時代の後輩、藤浪だ。この日、榎田は7回3失点で古巣相手に5勝目をマーク。一方の藤浪は6回途中7失点ながら、随所に復活の兆しを見せていた。「投げ合えて、うれしかったですね」。“元先輩”はそう言ってニッコリ笑った。

 藤浪がプロ1年目だった13年、ともに先発ローテの一角を担った間柄。今年3月に榎田の西武移籍が決まった直後には、仲間と一緒に「お別れ会」に参加してくれたという。それ以来の再会。ずっと藤浪のことが気になっていたらしい。「去年もそうですけど、悩んでいる姿を見てきたので」。同じ虎のドラフト1位組。「もちろん晋太郎とは比べものにならないですけど、僕も少しは気持ちが分かりますからね。自分もダメな時はいろいろ言われましたから。もちろん、悪いのは自分なんですけどね」と苦笑いだ。

 「晋太郎、頑張ってほしいですね!」。駅に到着した別れ際、榎田は柔らかな表情に似合わない、強い口調になった。同じ日に同じマウンドを踏みしめた2人。“元先輩”の温かいエールは言葉にするまでもなく、“元後輩”の足もとからジワジワと伝わったことだろう。【阪神担当 佐井陽介】