夏の甲子園大会が8月6日に開幕する。今大会の注目打者をピックアップ。

 高い身体能力でドラフト上位候補に挙がるのが関東第一(東東京)オコエ瑠偉外野手(3年)だ。ナイジェリア人の父を持つハーフ。183センチ・86キロ、右投げ右打ちで遠投120メートル、50メートル走は5秒96。今夏東東京大会では決勝・日大豊山戦で「中前二塁打」を放った。投手の足元を抜け中前に転がった安打を二塁打にした。二塁到達タイムは破格の7秒53。観客を驚かせプロのスカウトたちをうならせた。課題と言われた打撃も東東京大会で4割4分の打率を残し確実性が増した。打つ、走る、捕る、投げる。見ていて飽きない。広い甲子園でも暴れまくりそうだ。

ホームへ疾走する関東第一・オコエ瑠偉(写真は2015年7月27日)
ホームへ疾走する関東第一・オコエ瑠偉(写真は2015年7月27日)

 天理(奈良)船曳海外野手(3年=左打ち)も3拍子そろったプロ注目外野手。強豪同士の対戦となった2回戦の智弁学園戦で2本塁打を放つなど長打力も備わった。

 外野手では花咲徳栄(埼玉)大滝愛斗(3年=右打ち)もプロ注目。埼玉大会では2本塁打を放った。同じ花咲徳栄・久々宇(くぐう)竜也(3年=右打ち)は俊足が武器。初戦の春日部工戦で2本のバント安打を決めたが一塁まで3秒86、3秒87と素晴らしいタイムで到達した。

 北海(南北海道)鎌仲純平(3年=左打ち)は北海道屈指のスラッガー。東海大相模(神奈川)の4番を打つ豊田寛(3年=右打ち)は右方向にも本塁打を打てる長距離打者。東海大甲府(山梨)平井練(3年=左打ち)は勝負強さが魅力。静岡・内山竣(3年=左打ち)は巧打に加えパンチ力も付いた。県大会で3本塁打。日本代表候補にも選ばれている。センバツで2打席連続の満塁本塁打を打った敦賀気比(福井)松本哲幣(3年=右打ち)は背番号7を付けて甲子園に帰ってくる。右から左へと吹く浜風は、夏さらに強さを増す。左翼方向へいい角度で上がれば春の再現の可能性は十分ある。大阪偕星学園・姫野優也(3年=左打ち)は184センチの大型1番打者。大阪大会では2本塁打を放ち4割5分8厘と良く打った。智弁和歌山・山本龍河(3年=左打ち)も184センチの大型打者。昨春センバツで打った豪快な本塁打が忘れられない。

 ほかに滝川二(兵庫)の1番打者、根来祥汰(3年=左打ち)の足に注目。岡山学芸館・喜納智志(3年=右打ち)もプロ注目の強打者だ。

 捕手では健大高崎(群馬)柘植世那(3年=右打ち)がプロから熱い視線を送られている。強肩強打、今回が3度目の甲子園と経験も豊富だ。ほかに仙台育英(宮城)郡司裕也(3年=右打ち)、聖光学院(福島)佐藤都志也(3年=左打ち)、早実(西東京)加藤雅樹(3年=左打ち)、東海大相模(神奈川)長倉蓮(3年=右打ち)、静岡・堀内謙伍(3年=左打ち)、中京大中京(愛知)伊藤寛士(3年=右打ち)、遊学館(石川)高本康平(3年=左打ち)、敦賀気比(福井)嘉門裕介(3年=右打ち)、大阪偕星学園・田端拓海(3年=右打ち)、九州学院(熊本)中原力也(3年=右打ち)らにも注目。

 内野手では昨秋の明治神宮大会で大活躍し一躍ドラフト候補となった仙台育英(宮城)平沢大河遊撃手(3年)が最後の夏に燃える。宮城大会は17打数3安打と不振だったが、低めの変化球を捉える柔らかな打撃は天下一品。大舞台での復活に期待。

 作新学院(栃木)の朝山広憲(3年=左打ち)は昨夏甲子園でセンターへ本塁打。今夏も2本塁打を放った。同僚の添田真海(3年=左打ち)も好打者。

 関東地区ではほかに健大高崎(群馬)柴引良介(3年=右打ち)は長打力が魅力の三塁手。専大松戸(千葉)渡辺大樹(3年=右打ち)はプロも注目する181センチの大型遊撃手で1番を打つ。関東第一(東東京)伊藤雅人(3年=右打ち)は今大会出場選手中最高の打率6割8分4厘(19打数13安打15打点)をマークした。東海大相模(神奈川)の千野啓二郎(3年=左打ち)は1番打者ながら2本塁打の強打者だ。

 敦賀気比(福井)の篠原涼(3年=左打ち)は強力打線を引っ張るリードオフマン。天理(奈良)の4番・坂口獏弥(3年=右打ち)は186センチ、96キロのホームラン打者。智弁和歌山・春野航輝(3年=右打ち)も184センチ、98キロの巨体から長打を連発する。九州国際大付(福岡)の山本武白志(むさし、3年=右打ち)にも注目したい。父は元ロッテ監督の山本功児氏。187センチ、85キロの大型三塁手で地方大会でも打率5割と結果を出した。

 かなりの人数になってしまったが、個人的に今大会最も注目している選手を2人。

 まずは東海大相模(神奈川)杉崎成輝遊撃手(3年=171センチ、68キロ、右投げ左打ち)。チームでは3番を打つ主力打者で、決勝の横浜戦では試合を決定づける3ランをバックスクリーンへたたきこんだ。その打撃も魅力十分だが、さらに魅力なのが守備。フィールディングはもちろん、素早いスローイングに注目してほしい。捕って、投げるまでが速い。杉崎の守備に一目惚れしたのは今春関東大会・作新学院戦。山梨の富士北麓球場で見せた華麗な守備が忘れられない。正面に難しいハーフバウンドのゴロが飛んできた。どう対処するか注目していたら体をさっと半身に切り替え難なく捕球するとクイックスローで一塁送球。アウトにしてみせた。遊撃の守備ならこの選手が高校生で一番上手いのではないか。甲子園にも守備の良い選手が大勢やってくる。この目でぜひ確かめてみたい。

東海大相模・杉崎内野手
東海大相模・杉崎内野手

 もう1人は静岡の1番打者・鈴木将平外野手(2年=173センチ、73キロ、左投げ左打ち)。今春センバツで10打数4安打と既に片鱗を見せていたが、今夏は26打数14安打の打率5割3分8厘(チームトップ)と打ちまくった。特筆すべきはバットコントロールのうまさ。イチロー選手のように最後まで手が出てこない。突然、スパッとバットが出てきて確実にボールを捉える。足も速く静岡大会7盗塁。末恐ろしい2年生である。

静岡・鈴木将平外野手
静岡・鈴木将平外野手

 最後に早実・清宮幸太郎一塁手(1年=184センチ、97キロ、右投げ左打ち)について。

 西東京大会6試合、すべて「3番一塁」でフル出場し20打数10安打10打点、打率は5割。本塁打こそ出なかったが立派な数字だ。初体験の夏の大会。注目される中、全試合フルに出て毎試合安打を放った。それだけでもすごいことではないか。

 準々決勝の八王子学園八王子戦を神宮で取材した。試合後、三塁側のローカールームが会見場となった。和泉監督、加藤主将、そして清宮の3人が呼ばれた。複数のテレビカメラが回り、監督や上級生のいる中でのインタビュー。試合以上に緊張するはずなのに堂々とした受け答え。小学生時代から注目され場慣れしているとはいえ、大物ぶりに驚かされた。だからといってふてぶてしさや生意気さは感じさせない。憎めない、誰からも愛されるキャラなのではないか。

日大三戦で投手の方向にバットを傾け構える早実・清宮(撮影・狩俣裕三)
日大三戦で投手の方向にバットを傾け構える早実・清宮(撮影・狩俣裕三)

 技術面はどうか。野球界のご意見番、張本勲氏は出演したテレビ番組「サンデーモーニング」で「今のままじゃ難しい。やっぱり我流だから手直ししなきゃ。グリップが良くない。遊びが多い。ステップも良くない。これを直さないと」と話していた。つまりまだ未完成だということ。発展途上だと思えばいい。

 それだけに1年夏から甲子園を経験できることは大きいと感じる。全国レベルの好投手と対戦できる。今の自分の力を試す絶好のチャンスだ。PL学園・清原和博の1年夏の甲子園成績は23打数7安打5打点1本塁打、打率3割4厘(チームは優勝)。それでも1、2回戦は無安打に終わった。同じく星稜・松井秀喜は3打数無安打に終わり初戦敗退した。打てなくても悲観することはない。清宮は「人生でも最大ぐらいの財産になる」と初めての甲子園を楽しみにしているという。1打席1打席、1試合1試合が、今後の財産になればいい。初戦は3日目(8日)第1試合、相手は今治西(愛媛)に決まった。