「打てる捕手」の期待大。1軍の活性化を担う若手である。今季2年目。昨シーズン福岡大からドラフト4位で阪神に入団。梅野隆太郎(24)。身長173センチ、体重77キロ、右投げ右打ち。1年目はファームに落ちることなく、阪神の新人捕手としては田淵元コーチ以来45年ぶりに開幕戦に出場しただけにとどまらず、クライマックス、日本シリーズともに1軍で活躍した選手。逸材である。今季の正捕手とまでいわれたが、「捕手のリード面」でプロの分厚い壁に阻まれた。現在は、昨年には経験したことのないファーム暮らし。連日気温35度を超える炎天下で厳しい試練と向き合っている。

 指導にあたるのは吉田康夫バッテリーコーチだ。勉強家である。捕手としてあるべき姿勢は心得ている人。梅野の性格を「向こう意気の強い子なんですよ。ピッチャーをぐいぐい引っ張って行くことに関しては申し分ないのですが…」。最後に少々言葉を濁したところに問題がありそうだ。ゲームを見ているとサインを出してから、右手とミットでピッチャーにどんどんバッターに向かってくるように指示している。強気に見える。「オレについてこい」と言わんばかりのポーズ。強気結構だが、捕手は「そのゲームをつくる演出家なのだ。もっと冷静にまわりに気を使ってピッチャーの手助けをしようとして目配り、気配りをしていく必要があるように思える。

 元監督の野村克也氏いわく「キャッチャーは、守りにおける監督の分身である」という。確かにバッテリーはその試合のゲームメーカーである。それだけ責任と使命は重大なのだが、最近の梅野を見ていると、ピッチャーの状況によってマウンドへ歩み寄るケースが良くみられるようになった。同コーチが「ピッチャーの身になってリードすることですね。ピッチャーによっていい球、悪い球はその日によって違うと思うんです。そのへんの状況を少しでも早くつかんで、ストレートなり、変化球なり調子のいい球を軸にリードを組み立てていけるようになればと思っています」というように、投手の気持ちになろうと心掛けるようになった。進歩と見ていいだろう。

 一歩前進はしたが、キャッチャーである以上チーム、あるいは投手から信頼されることも大事なこと。そのためには野球をよりよく知ることだ。当然ゲーム展開での状況判断。相手バッターへの洞察力。味方投手の調子と精神状態を見極めて引っ張る。「ピッチャーのリードは、その試合の中でもガラッとかわっていく場合があります。これは1軍も2軍も同じですし、ゲーム展開によっていろいろ考えています」は梅野だが、捕手は投手の乱れを立て直す修理工場だともいう。ピッチャーの調子がおかしくなった時は、原因を素早く究明し、少しでも早く立ち直る方向へ導いてやるのも捕手の役目。こうした手助けがチーム、投手からの信頼につながるのだ。

 一球の恐ろしさを知るのも大事。その一球によって試合の流れは大きく変わる。配球に決まりはないものの、無数の配球が考えられる中で、ひとつの球を選んで決める応用問題みたいなもの。経験から割り出すサイン。駆け引き、直感で出すサイン。「いまは、味方のピッチャーを知る事が大事だと思っています。昨年はファームの球はあまり捕っていませんので、少しでも数多くの球をうけて、各投手がどんなストレートを投げるのか。変化球はどんな変化をするのか勉強していきます」(梅野)。いいリードは思いやる気持ちと見抜く力だという。そして、この世界でよくいわれるのは、ストライクは稼ぐもの。ボール球はうち取るものであり、ピッチングを生かすものだという。キャッチャーの練習は中身が濃い。試合前の練習で疲れがピークにくることもあるが、乗り越えるしかない。炎天下の修行を財産にしてほしいと思う。