大人になったバンビが春の主役になる。29日、第88回全国選抜高校野球大会(3月20日から12日間、甲子園)の選考委員会が大阪市で開かれ、昨秋の東海大会を制した東邦(愛知)の11年ぶり28度目の出場が決まった。1年夏に「バンビの再来」と騒がれたエースで4番の藤嶋健人主将(2年)は投打のパワーアップに自信を示した。東邦は優勝すればセンバツ単独最多の5度目、あと5勝でセンバツ勝ち星最多タイという大記録に挑む。

 あどけなくも負けん気あふれた顔は1年半前と同じ。だが、中身はもう「バンビ」と呼ぶには失礼なほど成長していた。名古屋市の学校で吉報を受けた藤嶋は表情を引き締めた。

 「優勝して、全国トップになることをすごく強く意識しています。甲子園で勝つのはすごいこと。東邦の歴史の中で積み重ねてきたものを自分たちでさらに積み重ねていく」。堂々と全国制覇を、そして新記録樹立を宣言した。

 昨秋、久しぶりに全国に健在ぶりをとどろかせた。公式戦は17試合中14試合に投げて防御率1・63。打っても、ともにチーム最多の5本塁打、24打点。大車輪の活躍で東海大会制覇に導いた。明治神宮大会の1回戦秀岳館戦の完投勝ち&2連発も強烈。それから2カ月半、進化を実感する。

 まず質のいい直球を目指した。歩幅を少し狭め、上からたたいて角度を出す感覚をつかんだ。体力トレーニングの効果で、年明けのブルペンでは「今までにない感覚があった」。速さより質にこだわるが、昨秋出した最速146キロにも「150キロ出したい。誰もがあこがれる。目指します」と聖地での自己記録更新に意欲的だ。

 メンタル面でも大人になった。昨夏の県大会準決勝では、力んで甘く入った直球を痛打され中京大中京に敗れた。新チーム発足後、敗戦シーンのビデオと向き合った。さらには、日本ハム大谷が打たれた場面ばかりを集めたビデオも。元中日の木下達生コーチから「大谷でも甘く入れば打たれる」と説かれた。力任せの投球から脱皮を図り、地区制覇につなげた。

 バットも大注目だ。中日の中田スカウト部長は「あの飛距離は正直驚いた。パワーが違う。天性のもの」と舌を巻く。将来性も含めたプロの評価は、現段階で打者としての方が高い。

 元祖「バンビ」の坂本佳一さん(77年夏)、2代目の水谷完さん(91年夏)は1年時に活躍して注目されたが、最上級生では甲子園に出られなかった。「3世」はどうか。「1年のときはあっという間に終わった。何も考えずただ投げるだけだった。自分がチームを引っ張るという気持ちもあるし、全員の力で勝ちたい」。バンビから“牡鹿”になった藤嶋が甲子園の歴史を塗り替える。【柏原誠】